40. 追憶 ページ40
「誰か開けて!お願い、気づいて!」
私は真っ暗な中、重い灰色のシャッターに何度も何度も拳をぶつけた。
喉が枯れて痛い。
煙が目に染みて涙が出てくる。
死が近づいていると肌で感じた。
恐怖が私を襲い、ふと友人の顔が頭に浮かんだ。
私の友人も同じ思いをしたのだろうか。
怖かっただろう、悔しかっただろう、寂しかっただろう。
ごめんね、本当にごめんね。
この火事で誰かを助ければ、彼女が私を許してくれるんじゃないかと思っていた。
誰かを助ければ、友人を亡くした夢も見なくなるんじゃないかとどこかで思っていた。
でも、もうここから逃げることができない。
きっと私はここで死ぬ。
最後にもう一度、一目でもいい、あの人に会いたかった。
目をつぶると、焔色の瞳で優しく見つめる彼の顔が浮かぶ。
『俺は戻ってくる。』
彼の声が頭の中で響いた。
いつ言われた言葉だろうか。
最近の記憶ではない、ずーっとずっと昔の記憶。
そうだ、舟の上でくちなしの花をもらった時に言われた言葉だ。
『俺は戻ってくる。長い任務だったとしても、俺はめぐみの元へ帰ってくる。』
彼の記憶が泉のように急に沸き上がった。
『だから、待っててくれるだろうか。』
炎の羽織を風にはためかせ、日輪刀を腰に差し、黒い隊服を着た彼が微笑んでいる。
胸に火の塊のようなものが込み上げてきた。
そうだ。
そうだ、思い出した。
私に花束を持って会いに来てくれた。
私を暴漢から守ってくれた。
鬼殺隊として、柱として。
私の夫となった人だ。
昔々の記憶。
なぜ忘れてしまっていたのだろう。
突然、建物が地震のように大きく揺れ、壁や床に大きな亀裂ができた。
パラパラと天井の亀裂から石の欠片が落ちてくる。
ホテルが崩れようとしているのだろうか。
会いたい。
彼に会いたい。
私はまだここで死ねない。
彼に会うまでは死なない!
彼の名前は……。
その刹那、シャッターが大きく波打つと、閉じ込められていた空間に熱い風が吹き上がった。
シャッターが破られた。
真っ暗だった場所に炎の光があたり、眩しさで思わず腕で顔を覆う。
目の前で火の粉が桜吹雪のように舞い上がると、その人の脇をすり抜けて消えていった。
歩いてくるその姿は見る者の心すべてを掴んで離さないほど見事なもので。
まさに威風堂々と、消防士がひとり立っていた。
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favo(プロフ) - 柚葉さん» 柚葉さん!いつも声かけてもらい、本当に元気をもらえました、ありがとうございます!素敵な設定なんて言ってもらい私も嬉しかったです☆もし新作できた際にまたお会いできるのを楽しみにしてます☆ありがとうございました! (2021年8月26日 17時) (レス) id: 8138f7760d (このIDを非表示/違反報告)
柚葉(プロフ) - 完結おめでとうございます。炎柱様が消防士!素敵な設定でした。他の柱の方も登場し、連帯の強さも柱時代と同じだあって、思いました。楽しい作品、ありがとうございました!!新作も楽しみにしています(^.^) (2021年8月26日 14時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
favo(プロフ) - tubinさん» tubin様、コメントありがとうございます!とても嬉しいです!引き続き頑張りますので、またどうぞ宜しくお願いします☆ (2021年8月23日 15時) (レス) id: 8138f7760d (このIDを非表示/違反報告)
favo(プロフ) - 柚葉さん» 柚葉さん☆コメントありがとうございます〜!そう言っていただけて私も嬉しいです!ありがとうございますm(_ _)m☆ (2021年8月23日 15時) (レス) id: 8138f7760d (このIDを非表示/違反報告)
tubin - すごくおもしろかったです!! 無中になって読んでました!! 続きがすごく楽しみです!! 応援してます!! これからもがんばってください!! (2021年8月23日 14時) (レス) id: 73a03e30c5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:favo(ふぁぼ) | 作成日時:2021年5月19日 13時