心燃ゆるは君がため【煉獄杏寿郎】

39.決意 ページ39

「全員退避だと……。」



宇髄からの知らせに唖然としてしまった。



まだ行方不明者がいるというのに。



非常階段から、ホテルの赤く光る火を見つめた。



怒涛のような思いが溢れ出る。



「すまない、宇髄、俺はまだ戻れない。」



「煉獄！お前の気持ちは分かるが、これ以上は危険が」



「分かっている！……分かっている。」



煉獄が悲痛な顔で、目蓋を閉じ、肩でひとつ大きく息を吐いた。



「Aの安否がわからない以上撤退するわけにはいかない。絶対に彼女を助けたいんだ。」



「煉獄、彼女はお前の何なんだ？」



不死川がインカムに手を添えて静かに聞いた。



「彼女は一度、この手で助けた女性だ。そして前世からの恋人で妻だ。」



「前世？」



「にわかに信じられないと思う。何を言っているんだと自分でも思う。」



「でも、やっと思い出したんだ。彼女は俺にとって最愛の人で、決して失ってはいけない人なんだ。」



「彼女を助けたい、この俺の命に代えてでも。」



「たのむ、どうか、いかせてくれ。」



意を決したような声で煉獄が頭を下げる。



「煉獄……。」



辺りの音をすべて持ち去られたように静寂が本部を包んだ時だ。



「俺は煉獄を信じる。」



無線から落ち着いた声が響いた。



冨岡だった。



「俺たち消防士はどのような状況でも心の安定を保ち、人を助けるためどんな逆境にも負けない。」



「それは俺ら4人が一番知っているはずだ。」



「煉獄なら彼女を助けることができる。俺はお前を信じている。」



力強い冨岡の声に、宇髄も不死川も顔を見合わせる。



どちらも、ひとつの答えにたどり着いた顔をしていた。



「分かったよ、Aちゃんを助けるためだ、俺も派手に一肌脱ぐぜ。」



宇髄の目がギラリと光る。



「しゃァねェな、やってやるよォ。」



不死川がデスクの上に置いていたメガネをかける。



黙って聞いていた煉獄が、きゅっと口を結んだ。



「ありがとう、みんな恩に着る。」



煉獄がヘルメットに手をかけて、もう一度かぶり直した。



「上は任せとけ、何かあれば俺が派手に全責任をとる。」



「いけェ煉獄、彼女を助けろ。」



「みんな、お前のことを信じている。」



「うむ！」



仲間の声に後押しされ、煉獄がひとり、炎の中に飛び込んでいった。

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