30. 羽織 ページ30
それから私は煉獄さんと団子を食べたり、水芸を見たり、とても楽しい時間を過ごした。
二人でいると、自然と笑顔が増える。
楽しい時間はあっという間だ。
「そろそろ戻らなければならない時間だな。」
煉獄さんが優しく言った。
気づくともう藤の花の家に戻る時間になっていた。
ふと空を見ると、朝はあんなに晴れていたのに、今は雨を含んだ墨色の雲が広がっている。
「降ってきそうだな。」
煉獄さんが空を見上げて呟いた。
風も心なしか強くなっている気がする。
「行こう。」
二人やや早足で帰りの道中を急いだ。
わたしたちが街を抜けるのを待ってくれていたかのように、ゆるやかに広がっていた雨雲は最初の一滴を落とした。
「A」
煉獄さんが私を呼ぶのとほぼ同時にフワッとそれを頭に被せた。
「濡れるから掛けなさい。」
柔和な声が耳に響き、煉獄さんの香りがした。
炎柱の象徴と言うべき炎の羽織を私に掛けてくれたのだ。
普段なら触ることさえおそれ多い。
代々炎柱に受け継がれてきた羽織は、私の頭から膝まですっぽり覆ってくれていた。
柔らかい肌触りがして気持ちいい。
「ありがとうございます…。」
胸の奥底がジンと熱くなり、お礼を言うと煉獄さんがニッコリ笑った。
そして直後、空は急激に色を変え、激しい雨を降らせ始めた。
「A、走るぞ!」
煉獄さんが私の肩に腕をまわして笑った。
その顔は子供がこれから雨の中ではしゃぎに行くような、ウキウキしているように見える。
雨は容赦なく私たちを濡らし始めた。
二人で走ると、パシャパシャ音がする。
「煉獄さん!」
走りながら背の高い煉獄さんを見上げると、どうしたと私の顔を覗き込んだ。
「一緒に入りませんか?」
走りながら煉獄さんの体に近付いて羽織を広げた。
「む、…。」
一瞬、目を開いて煉獄さんが私を見た。
そして嬉しそうに、
「うむ、入ろう!」
そう言って片手で羽織の袖を掴み、片手で私の腰に手をまわした。
道が一面水しぶきで白っぽく見えるほどの土砂降りだ。
煉獄さんの顔をそっと見た。
その顔は本当に楽しそうで。
私の胸の奧がまた、とくんと震えた。
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favo(プロフ) - にこさん» にこ様、最初から最後まで応援していただきありがとうございました☆そう言って頂けて私も嬉しいです(*´▽`*)ありがとうございます!短編集もまた書けましたらお知らせしますので、またどうぞよろしくお願いします☆ (2021年5月21日 8時) (レス) id: 8138f7760d (このIDを非表示/違反報告)
にこ(プロフ) - 完結おめでとうございます!お疲れさまでした(^^)すごくよかったです!!とにかくよかったです!!温かくて愛の溢れる作品でした★短編のほうも楽しみにお待ちしてます!これからも応援してますので頑張って下さい。新作も読ませていただきますね♪ (2021年5月20日 12時) (レス) id: 4f5310af0f (このIDを非表示/違反報告)
favo(プロフ) - 衣世さん» 衣世様、最初から最後までたくさん応援してもらいありがとうございました!元気をもらい、無事完結できました笑(*´▽`*)また更新した時はどうぞよろしくお願いします☆ありがとうございました! (2021年5月17日 18時) (レス) id: 8138f7760d (このIDを非表示/違反報告)
衣世(プロフ) - 完結おめでとうございます!二人とも幸せで良かった(^○^)短編集も楽しみにしてます! (2021年5月17日 18時) (レス) id: 1ea4fe96cf (このIDを非表示/違反報告)
favo(プロフ) - 柚葉さん» 柚葉様、コメントありがとうございます!本当に煉獄さんは生きていてほしいと思いました!私の中には生存ifしかありません笑(*´▽`*)新作、また読んでいただけますと嬉しいです!ありがとうございました☆ (2021年5月17日 18時) (レス) id: 8138f7760d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:favo(ふぁぼ) | 作成日時:2021年4月2日 0時