英霊魔導士、フィオーレを征く【第３幕】

ハルジオンの海賊船 ２ ページ10

｢ガルナ島？｣

知らない単語に鈴鹿御前が聞き返すと、エルザは数秒思案した後、静かに口を開いた。

｢S級クエストの地。呪われた島、ガルナ。
そこに、マスターの許可なく依頼を受けに向かった者がいる｣

｢S級クエストって、2階に貼ってあるっていう、あの…！？｣

目を見開いて驚くAに、エルザはこくりと頷き、話を続ける。
その表情は真剣そのものであり、声音には何者にも口を挟ませぬと言わんばかりの重さがあった。

｢そうだ。その危険さゆえに、S級の資格を持つ者のみが扱うことのできる仕事。
それを羽の生えた猫が盗んでいったという目撃証言があった｣

羽の生えた猫。ギルドの面々でその容姿に当てはまる者といえば、ハッピーぐらいしかいないだろう。
そしてハッピーがそのような事をするということは、ナツも共犯である可能性が高い。

｢ということは、ギルドに無断でS級クエストを引き受けたのはナツとハッピー…？｣

｢あぁ、主犯は確実にナツだろう。そして恐らく、チームメイトであるルーシィも一緒だ。
巻き込まれたのか、自分の意思でついて行ったのかは分からんがな｣

エルザはそう言いながらつかつかと海賊に歩み寄り、再び剣の先端を彼の眼前へと向けた。

｢連れ戻すと言って出ていったグレイは音信不通。やはり私が仕置きに行くしかあるまい。
ガルナ島まで、船を出してくれ｣

海賊は｢ヒッ｣と短い悲鳴を上げ、一番近くにいたアルジュナの後ろに回り込む。
そして彼の背中からエルザに向かって｢勘弁してくれよぉ｣と声を投げた。

｢ガルナ島は呪われた島だ。近づいた奴は悪魔になっちまうとかいう噂もあるし…第一、下っ端の俺には船を動かす権限なんてねぇんだよ｣

｢そうか。ならば船長のもとへ案内しろ。直談判したほうが話が早くて済む｣

｢そういう問題じゃないのでは…｣

エルザのあまりの強引さにAが唖然としていると、下っ端だという海賊はよほど彼女が怖いのか、素直に船の中へと一行を先導し始める。

何となく下っ端海賊を哀れに思ったAがサーヴァントを連れ立って船に乗り込もうとすると、エルザは突然くるりと振り返り、右の掌をAの顔の前に突き出した。
そして、冷たく言い放つ。

｢これは私の成すべきことだ。お前たちは帰れ｣

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