英霊魔導士、フィオーレを征く【第３幕】

月光と影 １ ページ50

不穏な気配の残る、マグノリアの夜。
何やら人集りができていて騒がしい南口の公園から、すこし離れた住宅街。
月光に照らされた大通りを避けるように、ひとつの影がとある場所を目指してこそこそと歩を進めていた。

影は周囲を警戒しながら路地裏ばかりを縫うように移動し、時折り地図を広げて目的地を確認しては移動を繰り返している。
そしてその手には、鉱山の採掘などに使用される爆弾型の魔水晶(ラクリマ)が握られていた。

何度目かの地図確認の後、影はとある一軒家の裏手で立ち止まり、建物を見上げて息を吐く。
やがて、誰にも気づかれないうちに手持ちの爆弾を二階の窓へ投げこもうとして……

｢＿＿敵性体、発見。……排除します｣

月光と同じ色に輝く、不思議な形の槍に阻まれた。
利き手を不意に切りつけられた影は、驚きながらも後退し、反撃のために声の主を探す。
しかし、右を向いても、左を向いても、建物を見上げても誰もいない。
影は焦った様子で、切りつけられていないほうの腕を咄嗟に振り上げて爆弾を投げた。

｢＿＿高魔力反応を検知。処理を優先｣

再び声が聞こえたと同時に、今度は流星が影の眼前を横切る。それは投げ込まれる寸前であった爆弾を空中で攫い、驚くほどのスピードで妖精の尻尾(フェアリーテイル)の裏手にある湖の中心へと叩き込んだ。
直後、くぐもった轟音と共に水柱があがり、驚いた人々が飛び起きて次々と家の明かりをつけ、外の様子を確かめようとする。
それは、影が標的にしていた家の住人たちも同じであった。

｢なに！？なんの音！？｣

｢A！まずは身の安全の確保を！｣

｢なんか爆発しなかった！？夜中に地響きとかヤバすぎだし！｣

作戦は失敗に終わった。とにかく今は、相手に見つかる前に逃げなければならない。
影は身を翻し、再び路地裏を縫って街の外へと急いだ。先程の声の主に追われないよう、できるだけ息を殺し、直線を避け、逃走経路である森へと駆け込む寸前で、目の前に立ち塞がる『誰か』を目視して足を止めた。

｢＿＿排除を実行します｣

月光に照らされた白い衣と、背から生える光の翼。
まるで天使を思わせる風貌のソレは、目深に被ったフードから赤い瞳を覗かせ、機械のような冷たい声で光槍を構える。

｢特例事項。攻撃型ルーンを使用｣

その日の夜明け。マグノリアの一部で｢地上を走る流星を見た｣｢天使が降りてきた｣などの噂が立ったものの、ことの真相を知る者は誰もいなかったという。

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