英霊魔導士、フィオーレを征く【第１幕】 (ページ29)

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フルール通りの休日２ページ29

｢少し昔の話だがな。俺はビッグなクレープ屋になるために、マグノリアって街に店を構えてたんだ｣

3つ目のクレープがアルジュナの手に渡り、3人は店先に置かれた木製のベンチに並んで座りながら、店主の話を静かに聞く。

｢店の規模は大したもんじゃなかったけど、まあまあ人気の店だった自覚はあるぜ。
このまま2号店とか出せたらなぁ、って夢を広げてた矢先、まさかあんなことが起こるなんてなぁ…｣

｢何があったんですか？｣

隣でクレープを頬張るAにハンカチを差し出し、アルジュナは遠い目をした店主に話の続きを促した。

｢…店の前で子供同士の乱闘騒ぎがあってなぁ。所詮は子供のケンカだと思って、放置してた俺がバカだったんだ…｣

｢その子供がおじさんの店でなんかやらかしたの？｣

｢察しがいいなぁ獣耳の嬢ちゃん…
その子供たち、両方とも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だったんだよ…｣

思い出したくない過去を思い出しているような苦い顔で、商品受け取りカウンターに両肘をついて頭を抱える店主。
惨状を察した鈴鹿御前は、｢あぁ…｣と店主に同情の視線を送る。

｢片方が放った氷魔法で設備は全壊、さらにもう片方が吐いた炎魔法で店ごと全焼。
財産全部つぎ込んで建てた店だったんだがなぁ…売り上げを入れてた金庫まで燃やされちゃあ、もうあの街ではやっていけねぇと思ったよ｣

｢それでこの町に移転を？｣

｢あぁ。正しく言うなら、身一つで地元に逃げ帰ってきたって感じだがな。
まったく、子供まで無茶苦茶やりやがるギルドだぜ。あそこは｣

｢な、なるほど…｣

どうフォローしていいのか分からず、食べかけのチョコクレープ片手に苦笑いを零すA。
これだけの美味しさならば街どころか地方でも有名なクレープ店になっていてもおかしくない。
ゆえに、なおさら目の前の店主が不憫に思えてくる。

｢超美味しいのに話題にもならないとか、ちょっと可哀想だし…そうだ！｣

誰よりも早くクレープを食べ終えた鈴鹿御前が、両手をパンパンと払って勢いよくベンチから立ち上がる。
そして、沈んだ顔をしていた店主にビシッと人差し指を向けた。

｢私たちがこの超美味しいクレープ、駅前で宣伝してあげる！
その代わり、おじさんに折り入ってお願いがあるし！｣

名案を思いついたと言わんばかりの良い笑顔で高らかにそう宣言する鈴鹿御前。
その突拍子もない発言に、Aとアルジュナ、そして店主の男性は目を丸くした。