第八話 ページ8
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一足先に談話室の扉の前に着いた。
談話室の扉は磨りガラスになっており、中に人がいるか否かくらいは容易に確認ができた。
室内には四人、先客がいた。長い金髪、短く切った茶髪、オールバックに見える黒髪、高い位置で一本に結った明るい海老色の髪。
「…紅露逍鴎時代だ…」
紅露逍鴎時代とは僕らの文学の基礎を作ってきた方々である。
自分より年上の人か…、と少し渋い顔をする。年下なら言えるのだが、年上だと言いにくい。
…ちなみに紅露逍鴎時代の面子は、尾崎紅葉、幸田露伴、坪内逍遙、森鴎外である。
この中で一番厄介なのは、うちの師匠・尾崎紅葉である。
露伴先生や森さん、坪内さんなら訳を説明せずとも察して何事もなく流してくださるのだ。
しかし師匠がいると何事なく終わるわけがない。あの人、オダサクさんに言わせると『いっちょかみ』なのだという。
要するに何事にも首を突っ込んでくる。よく言えば好奇心旺盛、悪く言えば『いっちょかみ』。そういう人なのだ、先生は。
「…どうしよう」
違う場所を考える。鏡花の部屋はさっき言っていた理由でダメだ。
自室は?…ダメだ。朝、執筆したままで出てきてしまったから机の上は散らかり、床のあちこちにぐしゃぐしゃに丸められた原稿用紙がある。それこそ鏡花でも連れ込んでみろ。夜中まで説教コースだ。
ならば司書室?…あそこもダメだ。あそこは司書の自室も兼ねている。女性の自室で話し合うのは如何なものか。
それならバー?…いやあの二人、中身はわからないけど見た目は少々幼いぞ。万が一バレたら館長かネコにドヤされるのは目に見えている。
友人の部屋…は、国木田と島崎の部屋は絶対取材してくるし、田山は快く貸してくれるだろうが、彼のそばには二人が必ずと言っていいほどいる。とりあえず取材を免れることは殆ど不可能だ。
他、他…。ええと、正宗…。
そうだ、正宗!
彼は基本的に一人狼。きっと彼なら頼み込めば貸してくれるはず!
ならば今からでも鏡花のところに行って報告しなければ。そう思って駆け出そうと談話室の扉に背を向けた。
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あにまるせらぴー(*´∀`)(プロフ) - 続き楽しみです!頑張ってください!(*´`) (2021年7月9日 0時) (レス) id: 99283ce527 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:皓月@司書兼指揮官 | 作成日時:2018年8月17日 18時