第三話 ページ3
…ちょっと何を言っているのか理解できない。
『「泉鏡花」を探しているんだ』だなんて、まるでこの図書館に『泉鏡花』がいることを知っているような口振りではないか。
しかし、一般の人間にこの世に僕ら文豪が顕現していることは知られていないはすだ。
一体どうしたものかと途方にくれていると、少年の肩越しからウサギの縫いぐるみがぴょこっと飛び出して、つぶらな赤い目でこちらをじぃっと見つめてきた。たまに長い耳をぴくぴく動かしている。
「へえ…今の縫いぐるみって主人の肩に乗ったり動いたりするのか…」
今更驚かない。喋るネコがいるのだから意志を持つ縫いぐるみもいるはずである。
「えっ!?」
すると僕の呟きに少年が驚いた顔をした。
「え?」
一体今の何処に驚く要素があったのかと首を傾げると、少年は肩のウサギと目を見合わせた後、僕の方を再び向いた。
「アンタ、このウサギが見えるの!?」
「う、うん。見えるけど」
食い気味に聞いてくる少年に少し引きつつ、辺りを見渡す。
確かに可笑しな話だ。少年の肩にこんな可愛らしいウサギの縫いぐるみが乗っているならば、人は何やら反応を示すはすだ。なのに少年がこちらに向かってきているとき、何もなかった(・・・・・・)。一回くらいは馬鹿にするような笑いや、『可愛い』という声が聞こえてきそうなものだというのに。
…そんな、まさかね。僕にしか見えていないとかそういうのじゃないよね。
それにしても、どうしたものかこの少年。
対応に困っていると、横から『あの』と鈴を転がしたような声が掛かった。
向くと、鮮やかな赤色の着物を着たお下げの少女が、片手に折り畳み式の携帯電話を握りながら無表情で立っていた。
彼女の手に握られている携帯電話には、子ウサギのストラップが垂れ下がっていた。
「私もその少年と同じ。この世界の『泉鏡花』を探しにきた」
少女はそう言って僕の目をじぃっと見つめる。二人の強い視線にふら、と軽い眩暈を覚えた。
…一体全体この二人は何者なんだ。
そう思いながら二人に目配せをしてふと気づく。少年の肩に乗るウサギの縫いぐるみ。少女の携帯電話に垂れ下がる子ウサギ。
…もしやこの二人…。
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あにまるせらぴー(*´∀`)(プロフ) - 続き楽しみです!頑張ってください!(*´`) (2021年7月9日 0時) (レス) id: 99283ce527 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:皓月@司書兼指揮官 | 作成日時:2018年8月17日 18時