崩れ落ちた火蓋 9 ページ31
外は蒸されているわけでもなく、しかしながら例年より高い気温が続いている異常気象によって、暑いことに代わりはなかった。
「炎は広がり、絶えることはない。どこまでも都市を覆うほどに熱く、広く。我が物で無きにしろ構わぬ。我が手元へと渡れ。都市を焼く魔槍(ゲイ・アッサル)」
ランサーが片手を上げ、長い詠唱を噛まずに唱えた。
一度目を閉じ、もう一度開き前を見る。
彼の手元には装飾の施された槍が現れ、それを見て小さく頷いた。
「マスター、何か良いルーンは思い付かないかい？即死とかは刻みきれないだろうし」
「打開のルーン…とか、状況が進歩していなければ効果が出るんじゃない？」
如月がパッと浮かんだことをそのまま言った。
ランサーは一瞬驚いた顔をし、直ぐ様にこやかな顔をして賛同する。
「じゃあそれで良いよね。…よし、早く投げないと。蒸発しかねないんだし？」
そこらに転がっている石を拾い、槍の穂先にルーン文字を力づくで刻みながら言う。
やや乱暴な刻み方をされた槍は問題なかったが、使われた欠片は砕けている。
砕けた破片を再利用して刻み、それが砕けたら利用しと強引なやり方を続けた。
「この町における三番目に魔力の高い核を捕捉。障害物の存在なし」
状況を確認して深呼吸し、狙いを定め空を見上げる。
右足を一歩引き、一度瞬きをしてから大きく振りかぶって。
「貫けっ！」
放たれた。
天まで届き、星をも貫くほどに高く槍が飛んでいき、それは物理演算を無視して落下することを知らない。
如月が物語によって描かれ知り、憧れていた彼が自分の本当にいることも再確認しその姿に見惚れていた。
「さ、マスター。ご満足いただけたかな？」
「…あぁ、とってもな」
かの話の書籍を揃えるほどのファンであった如月は、その時見せることのないような笑みを浮かべていた。
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作者名：菫青 | 作成日時：2019年8月26日 22時
