崩れ落ちた火蓋 1 ページ23
アサシンが取れる手というのは限られており、山の翁を肉体のみ借りたアサシンでは手段はないに等しかった。
それもアサシンに本来与えられたはずの気配遮断のランクがあってないようなものであり、勘の鋭い英霊であれば即時に気付かれる程度の意味をなさないものだった。
それでも人目があり油断できる場所ならある程度誤魔化すことは出来る。
それ故にアサシンはストーカー紛いのことをし、ある人物の後を着けた。
気配遮断は死滅したような程度なものの、アサシンは元の形を持たない。
器に詰め込むようにして現界したためにある程度の制限はかけられていたが、それでも一般人に成りすますくらいは朝飯前のことだ。
不意に側の方の少女が振り返った。
深く光のない紫であり、なんの感情を込めるでもなく無機質な双眸が捉えて離さない。
アサシンは驚いた。
変装は完璧であり、距離が進んで分岐点に至れば姿を変え、気配は人間にわからない限りで遮断したのだから。
英霊といえど微量な違和感さえ感じないものかと少々慢心していたこともあったのだろう。
「…どうしたの」
少女に続いて黒髪の男も振り返ってくる。
単独であれば好都合だが、この状況はアサシンにとって最悪に近い。
しかしながらある疑問があった。
(勘づいた女がサーヴァント。…恐らくキャスターだというのに、魔力の濃度は隣のマスターらしき人間の方が濃い。何故だ?)
アサシンの疑問は真っ当なものではなくただの勘でありながら、情報量の少ない今においては信用に値するものである。
「構えろマスター。サーヴァントだ」
少女が―オリヴィエがキャスターに合図する。
その姿は話を聞くきがないというよりは、話を聞く前に仕留めて話を聞かないようにしようとしている。
真実から目を背けようとするその姿は、とても機械的かつ闘争を好まないキャスター崩れ、更に言うなら情報の分別ができる英霊には見えない。
「…問答は不要か」
ごき、ごきと生々しい音を立てて一般人の形を崩していく。
オリヴィエはその光景から咄嗟に目を逸らし、口元を抑えた。
対してキャスターは平然とした顔でその光景を見ていた。
アサシンは自らの推測が当たったことを確信する。
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作者名:菫青 | 作成日時:2019年8月26日 22時