兆しはなく 10 ページ19
本から目を離さず適当に答えると、案の定質問が返ってきた。
ただ、遠野は奇才でも天才でもない凡庸な人間であり、また早計でもあった。
気が付かないまま地雷を作り、踏むことも行ってしまう。
「そう。やること。まあ聖杯戦争と同時進行すれば良いから平気。迷惑はかけないよ」
本から少々目を離してライダーを見上げ、うっすらと微笑んで言う。
それからまた本に視線を戻し、他愛ない経営術が羅列したものを知識として集め始める。
彼の言う聖杯戦争との同時進行とはただ単に放置することであり、できればやる程度との意味合いしかない。
それほどまでに聖杯戦争への干渉を避けている。
「…ライダー、ゲームでもする?」
本を読み終えたのか閉じ、むくりと起き上がり、提案した。
「いいな、それ。レースゲームとかあるか?」
「人類最高速とレースゲーとか負ける気しかしないから嫌だよ。育成系とか良いんじゃないの?」
テレビ台にしまってあり分類分けされた大衆向けのゲームを漁りながら問い返す。
「お、何があるんだ?」
「会社おっきくするのとか奇妙なのとか…ん、国造るのとか?折角だし大英雄の意見聞いてみたいからね」
遠野は一本のゲームソフトを取りだし、口元だけ笑いながら見せ言う。
遠野の所持しているハード及びソフトは偏っており趣味が割れるものの、それでも質の良い物が揃っている。
ただ数多のソフトからその系統を選んだことは純粋な興味のみであり、それこそ"間違った観点からの"思考でもあった。
「そらぁ面白そうじゃねぇか。マスター、領地取りなら任せろよ!」
「いやこれゲームだから戦闘より運と知能の方が重要だからね。さぁて、快適にプレイする環境でも用意しようかなっと」
大袋のポテトチップスと小分けされたチョコレートをそれぞれ三袋ずつ両手に抱えながら言う。
聖杯戦争にあるまじき一部の人間がこよなく愛する宴が始まってしまった。
本来の魔術師なら準備なり奇襲なりするであろうところでさえ別の行動をするのは可笑しくあり、サーヴァントがサーヴァントなら恐らくは殺されていた。
しかしながらこれは遠野にとって日常を日常としてあらせるのに必要であり、またタガが外れないようにするべきものであることも確かだ。
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作者名:菫青 | 作成日時:2019年8月26日 22時