二度と来ない日【歌い手】 (ページ2)

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ただただその言葉に驚きも、困惑も見せない先生の表情が怖くて。いつも通りの先生だと言えばそうだけれど、そのままの声音で突き放されるかもしれないと思えばひんやりとした暗い洞窟の中を裸足で歩くような心持ちだった。

ようやく周りの音が聞こえてきた。カラスのなく音。校庭で未だ卒業生達が盛り上がる声。先生の息を吸う音。そして、自分の心臓の鼓動。

「今日Aに会えなかったら、もう二度と会わないと決めてたんだけどな

まさか会いに来てくれるとは、想定外だった」

自分の中に落とし込むような独り言。そして白衣についている大きめのポケットから取り出した小さなくしゃくしゃのメモ。

「卒業おめでとう、A」

そっと触れた先生の指先は、前に一度だけ触れたのとは違う。ひんやりとした体温じゃなかった。熱を帯びて、少しだけ赤く見える指先。

メモの中にはずっと憧れてた十一桁の数字。

「これ、」
「四月一日に、連絡が欲しい」

思わず抱きついてしまいそうな衝動を抑えて、いい子のフリをした。三月三十一日までは、私はあなたの教え子だから。

物分りのいい子でいられるようにするために、その日までは先生との写真を携帯の待受画面にしようと思う。

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