さよなら、18歳。【Soraru】 ページ1
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帰りたくなかった。色褪せるのが嫌だった。
左胸に咲き誇る桃色の花は夕日に照らされて風に吹かれて。何人もの友達と撮った写真がカメラロールに溢れかえる。
たった一人だけ、足りない。
気にしてないふりをしながらずっと探していたけれど、会いたい時には会えない。好きになればなるほど会いたいと思うから会えないのかもしれないと何度も考えたことがある。片想いが辛いのは、そういうような要因があるからなのかもしれない。
もう全部が終わってしまった。その校門をくぐった瞬間からもうこの学校の人間ではなくなってしまう。
春は別れの季節だという。新たな出会いのために別れを経験しなければいけない。まるで今までの出会いの上に新たな出会いを上書きしなければいけないようで、私は好きじゃなかった。一生のうちで友達ということの出来る人数は限られているかのようで。
だから、やっぱり嫌だった。
3年間の砂埃が薄らとついたローファーを昇降口に脱ぎ散らかして、上履きを履くことすら惜しみ紺色のハイソックスは少し白っぽい。
きっといつもの場所に。
そこにいなかったら、大人しく諦めて帰ろう。
いつも先生がいた場所へ。もうあなたの生徒じゃなくなってしまうけれど、私はお別れなんてしたくない。
「そらる先生、」
からからと控えめな音。静かな校舎に扉を開ける音が響くのを恐れた。
夕日が指す保健室の窓辺に、背をこちらに向けている先生。いつの間にか目で追うようになってしまっていたからか、ひと目でわかる。先生だって。
これは憧れに過ぎない。恋なんかじゃない。言い聞かせてきたけれど、今日までずっとこの想いは色褪せなかった。
「どうしたの。帰ったんじゃ───」
「好きかもしれないです」
一過性の恋心じゃなかった。
「好きかもしれないって思ってから、もう三年目になるんです」
大切なことは、目を見て言いたかった。恥ずかしくて逸らしてしまいたかったけれど、それは私の心の中に僅かに存在する矜持がどうにも許してくれなかったのだ。
「もう、素直になってもいいですか……？」
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作者名：澄々-すず- | 作成日時：2019年3月15日 17時
