「だから君を書く」 (ページ9)

今日:5 hit、昨日:2 hit、合計:612 hit

ヒロインの初登場はピンチとセットで＿1 ページ9

「ちょっっっと待てそこのポンコツ作者！あんたにはプライドってものがないの！？」

よく通る女性の声が響いた。
　思わず顔を上げて辺りを見ると、手のひらサイズの火の玉が美織目掛けて飛んできている。それは彼女がカッターナイフを持っていた手に命中しーー熱っ、とそれを振り払った彼女の手から火の玉は消えたが、同時にカッターナイフも取り落とす。
その隙にやって来たのは、如何にも大人の女性、といった綺麗な人だった。ショートカットの癖のない赤髪に、意志の強そうな緑の瞳。ぼんやりとしているうちに、とにかくこっち、と彼女は私の左手を、血まみれになったティッシュの上から掴んで、校門の方へ走り出す。

「邪魔しないでください！」

美織の叫び声に反応して後ろを向くと、彼女は落としたカッターナイフを拾ってーー振りかぶって、こちらに投げた。反射で右手で顔を覆うと、その瞬間にパン、と乾いた音がした後、プラスチックがアスファルトに転がる音がした。

「ありがとケネちゃん、助かった！」

私の手を引く彼女は軽快に言う。
何故かその出で立ちに、表情に、話し方に、私は覚えがあった。
けれど、その記憶を掘り起こす暇も与えず、彼女は私が着いていけるギリギリのスピードを保って走る。
だから私は着いていくのが精一杯。けれど、そんな中でふと彼女ーー美織の方を振り返る。こうして周りをきょろきょろしてしまうのは、昔からの癖だった。もちろん、今回は振り返らずに走った方が幸せであろうことなど薄々気が付いていた。

「どうして、どうして！！あなたには責任があるでしょう……」

諦めたのか、彼女は低い声でそう叫び、呻く。綺麗な表情は、恐ろしくなるほど歪んでいた。美人が怒ると怖い、とはこのことだろう。けれど。
　私はその姿に、一抹の罪悪感を覚えた。そしてその瞬間に、私達は共に校門を出た。当然、彼女の姿は見えなくなった。
　視線をそらしながら、やっぱり見なきゃよかった、と目を伏せる。
　世界は多面的に見ると、必ずどこかには被害者と加害者がひっくり返る余地があるのだ。