「だから君を書く」 (ページ6)

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現実に文脈などない＿3 ページ6

「思い出してくれたみたいですね、よかった！それでは、一つお願いが」

そう言って、美織はトートバッグから一冊の本を取り出した。ラノベの文庫みたいな感じの本。──「もし出版されるならこんな感じだろうな」と私が妄想したのとどんぴしゃりの。それを私に押し付けながら、また彼女はカッターナイフを取り出してチキチキチキ、と中身を出す。
押し付けられたのをやむにやまれず受け取ると、その受け取った左手に刃先を当てられた。あと少しでも力を入れたら切れてしまう、という微妙な力加減。

「書いてください！私と彼の、幸せな結末を。そうじゃないとーー」

ぷつ、という擬態語が似合いそうな感じで、刃先が私の皮膚を切り裂いた。痛い、というより感想としては「やばい」。手の方を直視できず、彼女の顔を見ざるを得なかった。
ーーやっぱり、顔色一つ変わっていない。そのまま、絶妙な力加減で少しだけ刃先を下にやったあと、カッターナイフをひとまず離す。ああ、血、血が。

「ね？私はあなたのためを思ってやっているので、勘違いはなさらないでくださいね。ーーほら、何かを途中で放り出すことって、ダメでしょう？書いてください、ほら！」

鈴原美織。彼女は、私が高校一年生の夏、二千字も書かずにやめた小説、『ばけものとヤンキー(仮)』のヒロイン。
真面目で大人しくて、少しおっとりした所のある優等生ないい子。けれどそれは化けの皮で。
チキチキチキ、とまて目前でカッターが鳴る。紫の瞳は、正気そのものに輝いているのがまた怖い。
その実は、愛を「暴力」という手段でしか伝えられない、狂った女なのだ。
そして何故か、その「作者」である私は──キャラクターである彼女に、「自分の続きを書け」と迫られているのであった。

──思い返して見るなら、きっとここまでが物語のプロローグ、なのだろう。