傍線部A＿1 ページ2
まもなく、まず最初に食べ終わった子が「職員室行かないと」と立ち上がる。その後残ったのは私と、もう一人。口下手な二人なので、余計に静かになる。
「次、何だっけ？」
黒板を見れば分かるけど、沈黙に耐えられなくて聞いた。
「世界史じゃなかった？」
「あ、じゃあ私は日本史か……やばいな、詰め込まないと」
「そうだね」
そこでちょうど二人とも食べ終えたので、復習しようか、とお互い自分の席へ戻った。
社会の教科書を開く前に見るのは、先程話題に上がった国語の模試の小説ページ。やっぱり、問五の内容は「傍線部��に『今日ばかりは娘の髪を耳にかけてやることが出来なかった』とあるが、この時男が娘に対して抱いていた感情は何か。適切な選択肢を一つ選べ」というもの。一、三、五には勢いよくバツが書かれ、結局四に汚い丸をつけていた。今考えても、この選択肢であっていると思う。
時間の無駄、と思いつつやめられない。そのまま大問一、二、四もパラパラとめくった。今回はそんなに難しくなかったから、九割くらいはいく気がする。
国語は昔から得意だった。古文や漢文の文法と単語は置いといて、私は読解の勉強というものをしたことがない。昔から本が好きだったのもあり、むしろ国語に限れば教科書を読むのは趣味の範疇だった。評論文なら主張、小説なら感情、ほとんどが手に取るように分かった。だって、全部書いてあるのだから。紙の上の文章の全てには意味がある。だから、それを読んで繋げて連想すればいい。傍線部が引かれていたら、そこを自分なりに言い換えてみて、あとは関係ないものを含んだ選択肢を切ればいい。記述問題なら、言い換えた後に文字数に合わせて情報の取捨選択をすればいい。文章上なら、私に分からないことなんてなかった。
──だからこそ、現実でもそうであったらいいのにと思う。現実でも、全ての表情が、行動が、爪を弄るような細かい仕草が、全て文章化されているといい。そして、反応して読み取るべき部分に傍線部が引かれていればもっといい。もっと求めていいなら──それに対してどんな反応を取ればいいのか、という選択肢があれば無敵に違いない。そうであれば、さっきの食事中の会話ももっと盛り上がったはずだ。私がもっと違うことを言っていたら、皆を楽しませることが出来たはずだ。
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