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プロローグ ページ1

小説を書く者として、「続き書いて!」という言葉は、それだけで原稿用紙十五枚は埋められちゃいそうな言葉だ。
でも、でもね。

「ほら、夏穂先輩! 書いてくださいますよね、続き」

時間は夜。場所は駐輪場。時折頬を掠める冷たい風が心地よい季節。ちりちりと痛む左の手の甲、そこから流れる血液。目前には、同じ血を刃先につけたカッター。それと、一冊の本を私に突きつけながら据わった目で笑う、それはそれは綺麗な女の子。

「ね? ……あなた、『作者』でしょう?」

文豪でも何でもない、小説を書くのが趣味程度のただの高校生に、こんなシチュエーションは重すぎる。



主従。主従ものを書いてみたい。女の従に対して、男の主はどうだろう。恋愛関係一切なしの、信頼で結ばれた。
あ、でもこの前ネタだけメモした短編も書いとかなきゃいけない。せっかく思いついたフレーズを忘れてしまう。窓辺から差し込む、少し熱すぎるくらいの光は、いい感じに私を想像の世界へ連れていく。

「ねえ、問五って何にした?」
「問五? 小説の?」
「うん、二か四で迷って」

今は、模試の合間の昼休み。一息着いての昼食中で、友人三人と弁当を囲んでお喋り中。話題は、先程終わった国語の問題のよう。
小説の問五……そういえば、今回の小説は面白かったな。タイトル控えるの忘れてた。
内容は確か、天涯孤独になってしまった少女を、縁あって引き取った芸術家の男の話。問題文になっていたのは、男が娘への恋に気づく部分。野辺の小さな花と、少女を重ねる描写が綺麗だった。ロリコンと言われればそれまでだけど。──でも、物語は多分両想いにならずに終わるのだろう。「冬の香りがする乾いた風」とか「踏まれて砕け散る落ち葉」とか終盤の文言がひたすら不穏だった。

「え。私、三にしたよ」
「本当? ねえ、あかりちゃんは?」
「……え? えっと、私は……」

脱線していた考えが、友人の一言で慌ててレールに戻る。けれど、なかなか車輪と噛み合わない。えっと、問五。問五。男はどのような感情を〜みたいな問題だったっけ。

「……確か、恋心が云々、みたいなやつ。娘のように感じていた〜とかの……」
「それ、何番?」
「四……? いや、三かも。合ってないと思う」

笑って誤魔化しながら最後まで言い終わると、そこで会話は途切れた。話題がなくて、それぞれ弁当に目を落とす。周りの喧騒が、やけに大きく聞こえた。

傍線部A_1→



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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年3月16日 21時

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