2.なくしもの ページ2
sideA
不味い。非常に不味い
部屋に荷物を置き、入学式の会場へと向かう
その途中、気付いた
姉から貰った懐中時計を落としたことに
入学祝と言って渡されたそれは、どこぞから持ってきたアンティークの逸品だった
セピア色の外装に花をあしらった細かな装飾
一秒一秒を正確に刻む針
姉さんの趣味の良さに脱帽したのをよく覚えている
そんな時計を落としたのだ、正直冷静じゃないと思う
それに、入学式の開始はもうすぐときた
一言で表すと"ヤバい"
「どうしよ…どうしよう！！！！」
気付いたら落ちていたのだ。何処で落とした…なんて分からない
何の手掛かりもない現状、推察すら不可能
誰かが拾っていてくれないか…今の望みはそれだけ
半ば諦め掛けていたところに現れたのは、
「君、もしかしてこれ落とした子？」
肩にかかるほどの髪、紫が宿った瞳
とんでもなくツラがいい男だった
そう、とんでもなく
そしてその手には件の懐中時計
勢いのまま彼の両手を包み言う
「……
「できれば名前で呼んでほしいかな」
そりゃそうだな、うん
一度落ち着いて彼の手を離す
初対面の人に対するテンションじゃなかったことは認める
「あ、俺は萩原っていうの
萩原研二。よろしく」
「私は神楽A
萩原さん、本当にありがとうございます」
そう言って懐中時計の葢を撫でる
見つかってよかったなぁ……
「いいってことよ、大事な物なんでしょ？それ」
「はい、すごく」
……この人にコレの値段話したらどうなるんだろう
そんな悪戯を画策していると、彼にとある提案をされた
「あのさ神楽ちゃん、神楽ちゃんがよかったらなんだけど会場まで一緒に行かない？」
「是非！！」
よっしゃお誘いゲット！！
ぼっち回避だぜ☆
え、教場が一緒かどうか分からないだろって？
考えないようにしてたんだけどねHAHA！
いかんいかんさっきからテンションがバグってる
久方ぶりの日本にはしゃいでるだけ、うんそうきっと
私が自問自答していると、廊下に大声が響いた
「はぁぁぁぎぃぃわぁぁらぁぁぁぁぁ！！！！」
かなりの怒気を纏っている
あれ、ヤバくね
「あ、やべ」
ほら萩原さんもヤバって言ってるじゃん
…その怒りの矛先が私の方に向くのも時間の問題だろうか
こちらに向かってくる黒髪童顔の男
例えるならば、般若
私死ぬかもしれない
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作者名：ハオリ | 作成日時：2023年4月14日 0時
