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演出 ページ7

静かな教室に、スマホの着信音が響いた。
この一連の演出を提案したのは、紛れもなく、
八木さんだった。



Aが驚いた顔をして振り向く。
俺は、その目を見つめたまま立ち上がった。
いつから居たのか、と問いただそうとしている表情を見て、彼は言った。



「俺が呼んだんだよ。
きっとAは、中島さんを選ぶって」


あの時コーヒーを飲みながら、八木さんはそう言っていた。
中島さんを選ぶはずだから、
この計画、上手くいくと思う、と。


「Aは優しい割に、こういう時はしっかり言葉にするんですよ。
瀬戸際まで、もしかしたら俺から振らないと白状しないかもしれないと思いましたが。
不要な心配でした」


涙の跡が少し残ったその顔は、どこが強がっているように。
最後まで、期待していた。そんな風に見えた。
俺は思わず、口を開いた。



「本当に。今日で、会うのは最後ですか」


Aが俺を選んでくれた高揚感と、喪失感が同時に押し寄せた。八木さんと"再会"した、あの日を思い出す。
クリスマスの夜、彼も駅にいたという内容を聞いてしまった。


俺たちは、互いにとって"聖夜に舞い降りた"人間だった。



しかし、人間たるもの、


全ては手に入らないらしい。


八木さんは俺とAから離れるため、出口の方へ歩き出した。


「……この場所で、3人で会うこと。
これをやりたくて、勝手に付き合わせた。
2人には申し訳ないと思ってます」


その台詞を聞いて、俺自身にも哀愁が漂ってきた。
俺とAの新しい関係性が始まれば、彼の立場はもうない。
友人として関わっていく選択肢もあるが、
そんな暴挙は、八木さんにとって、どんなものだろうか。


出会ったことに、意味がある。そう思える日は、果たして訪れるだろうか。

その時、Aが、涙を溢して言った。


「……勇征のおかげで、本当に楽しかった。
何回も好きだって思ってた。


けど本当は、




やっぱり、言ってほしかった」



教卓に辿り着くと立ち止まり、八木さんは天井を見上げた。
そのままポケットから何かを取り出し、後ろ手にAに見せた。


窓から差し込む光に照らされたネックレスは、嫌と言うほど綺麗だった。




「今日、やっと置いていける。



 

拾わないでね。








…………戻ってこないように、置いてくんだから」






そっと教卓の端にそれを置き、背中で言った。



















「2人とも。















………お幸せにね」

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作者名:ゆい | 作成日時:2024年3月4日 17時

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