2号館 ページ3
2人で電車に揺られながら、最近の仕事についての話をした。Aの会社の話を聞くたびに、あの人がよぎる。
羨ましい気持ちだった。この歳になって、毎日会えていたあの日々の貴重さを知る。中島さんから同じ会社を勧められたことは、初めて聞いたが……
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「うわー、懐かしい」
「ほんと。すごい久々に来たけど変わってないね」
駅から数秒で着く大学の門をくぐると、中は袴姿の女子とスーツの男子でごった返していた。
学部で時間が分かれていたはずだが、今は違うのだろうか。
「俺らも写真撮っとく?」
「撮っとこう。あの時撮れなかったからね」
そうして俺たちは桜の木の前で写真を撮った。
人が多いだけあって、少し浮き気味の自分たちを気にする人は1人もいなかった。
懐かしい思い出を歩いて振り返りながら、俺は前方の建物を指差した。
「あれ何号館だっけ」
「2号館じゃなかった?よく1限あったよね」
「そうだ。…‥行っちゃおうぜ」
俺はAの手を引いて、自動ドアを通り抜けた。
エスカレーターを登ると、何部屋か分かれているが、1番大きな講堂のドアが開いているのが見えた。
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「ちょっとやってたらどうすんの」
「しー!大丈夫だって」
恐る恐る2人で近寄ると、ちょうど向こうのドアから教授が出ていくのが見えた。空いている。
それを確認して俺が先に足を踏み入れた。
「うわー………この独特な匂い笑」
「そうそう。香水くさい学生がいたりしてなー」
そう言って教室を見回していると、Aが小走りで真ん中の席に着いた。
そして、後ろの俺を振り返る。
「ここね。いつも座ってたとこ」
「…そうだわ。席取ってもらってたな」
「勇征必ず遅刻してたもんねー笑」
そう言われながら隣の席に着くと、心から懐かしさが込み上げた。
俺のあの頃の日常が、一気に蘇った。
そして、あの頃の感情も、同時に溢れた。
「……なんでさ。あんなに一緒にいたんだろうね」
「ん?」
「俺たち。別に約束してないのに、明日行く?じゃあ席取っとくわ、って」
「そうだったね」
こんなに無音な教室は初めてだった。
2人の声だけ、異様に響いている。
「好きだったからだよな。当たり前だけど」
「……」
「俺はその気持ちだけで朝イチ来てたよ。
近くもない大学に。Aがいなかったら、単位落としてた」
「そうだよ。感謝して笑」
こちらが少しくさいことを言うと、決まってAはこんなふうに返した。
ずっと、変わってない。
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作者名:ゆい | 作成日時:2024年3月4日 17時