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春の風 ページ2

ついに、この日が来た。という感じがした。
ちょうどいい気温と、桜が満開の日だった。

結果がどうなるのかは、考えないことにした。
昨日の夜も、タバコが進むことはなかった。物思いにふけそうになるところを、なんとか抑え込んだつもりだ。


スーツは、いつもの物にした。変にお洒落をしてもおかしいし、かと言ってラフだと大学で浮いてしまうだろう。


今の俺は、大学で"いい意味"で、浮いて見えるのだろうか。きちんと、社会人に見えるのだろうか。


あの頃より、大人になっているだろうか。



.




Aとの待ち合わせ場所までに、近所の中学校の前を通った。門前に看板が出ている。どうやら、この学校も今日が卒業式のようだ。


俺たちはのんびり昼ごろ集合だが、もう卒業式は終わりの時間だろう。


体育館の方から、合唱が聞こえてくる。終盤の一番の催しだ。


「この歌、なんだっけなぁ……」


晴天の空を見上げ、歩きながら口ずさんでみる。
俺は、合唱は好きではなかった。中学の頃なんてかっこつけて歌わない男子がほとんどだった記憶だが、今思えば、あの頃モテていた奴はみんな、真面目に歌っていた。


「我らー、人の子のー、喜びはあるー……」


タイトルが出ないなぁ、と首を傾げると、背後から声がした。






「大地讃頌。だね」



振り返ると、そこには綺麗なセットアップを着たAが、手を振りながら立っていた。
春風に吹かれてなびく髪とスカートが、なんだか漫画の一場面かと思うくらい、綺麗だった。


数秒間黙ってしまったが、我に返って声を出す。



「……そうだ。それ。大地讃頌」
「私これだったなぁ。中学の卒業式」
「まじ?俺も」
「あの時はなんでこんな渋い歌、と思ったけど。今聴くと、良いもんだね」
「Aはさ、真面目に歌ってた?」
「歌うというか、伴奏してた」
「えっ、弾けるの?」
「弾けるよ。だいぶやってたから笑」


まだ知らないことがあったのか、そう感じた。


人は、一体どれほど同じ時間を過ごせば、相手の全てを知ることができるんだろう。


知らされていなかったのか、知ろうとしなかったのか。
どちらなのだろう。


隣を歩くAの横顔からは、今日どんな気持ちで会ってくれているのか分からない。

俺はポケットに手を入れた。
ある物の感触を確かめながら、ゆっくり立ち止まった

名前を呼びかけると、Aは笑顔で振り返る。
その笑顔に、言った。




 











「楽しもうね。………卒業式」

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作者名:ゆい | 作成日時:2024年3月4日 17時

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