ビターチョコレートシンドローム 【HQ】

08 その程度ならとっくに、 ページ8

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『、京治くん？』

「え、Aちゃん…」

黒尾さんが去っていったと同時に、
入れ違いで反対側の廊下からやって来たAちゃんに
思わず戸惑う


『その、…昨日はごめんね、途中で走って帰っちゃったりして』

「いや、気にしなくていいよ」


俯く彼女と俺の間を、風が通り抜ける





「……黒尾さんと、付き合ってるの？」

『…うん』


「そっか、」


再び訪れる沈黙、
でも、それを彼女が静かに破る



『でも、忘れたわけじゃない』




『京治くんとの、あの思い出は、ずっと私の中で生きてるよ』

ゆっくりと、胸元のそれを握りしめる彼女


「…うん、解ってるよ」


解ってるから、余計に苦しいんだ

あの日の思い出も、約束も、全部全部、憶えてるから。


何をしたって、他の人といたって消化しきれないこの想いは、
余計自分を辛くさせるだけなのに




「どうしてAちゃんが泣くの…」

『ごめんなさいッ…京治くん、辛かったよね、』

こんな時まで、俺の心配かよ、
なんて、彼女の瞳から溢れる涙を拭おうとした寸前で、止まる



これは俺の役目じゃないのに、いいのかと


『京治くん、ごめんね』

そう、涙を溜めた彼女が、俺を見つめた時、
全部、どうでもよくなった


「……はは、」

乾いた笑いが響いて、
不思議そうに見つめた彼女の唇に、
静かに自分の唇を触れさせた



離れた時に見える、驚いた顔の彼女


ふと蘇る、あの日の白いワンピースを着て花冠を被った彼女と、
今目の前にいる彼女が被る



…本当、呆れるな、自分に。
好きなものには一途だなんて、
何時しか言った自分の長所に今、自分で苦しめられてんじゃん






もう、事が複雑になるとかそんなの、どうでもいい
最初に好きになったのも、告白したのも、俺が先なんだ


「ごめん、諦められそうにないや」



そう、簡単に離れられるくらいなら、
もうとっくに、ずっと前から諦められてる


それに、



「約束は、守るから」




運命の赤い糸は、俺と結ばれているのだから



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