ビターチョコレートシンドローム 【HQ】

15 許し ページ15

・



「キス、しました」




さっき赤葦に言われた言葉が頭の中を永遠と駆け巡る



「ホンット、タチ悪いな…」


合宿中煽った俺も悪いけど、
赤葦も赤葦なわけで

アイツが恋愛においてこんな肉食だったなんて、
知る由も無かった


マジで、俺の彼女に何してくれんだよ


カカオ８０％ぐらいのチョコでも食わされたみたいに
苦くて最悪な気分だ





今まで彼女の周りをふらつく奴らは全員牽制かけてきたつもりだったのに、

フラッと現れた、しかも年下の男になんて奪われてたまるかよ

合宿で疲れたなんて感情もすっかり吹っ飛んで、
数時間考え込んでから家を出た








『…もしもし、』

「お、A、今どこいる？外？」

『いや、ついさっき家着いた』


心なしか、通話越しでも彼女の元気の無さが伺える



「あっそうなの。なら、今からお前ん家行っていい？」

『…ごめん、今日はもうゆっくりしたい』


断られるなんて、大体想定済み


「うーん申し訳ないんだけど、もう既にお前ん家の前なんだよね」

『、は…』


目の前にある家の二階のカーテンが勢いよく開けられ、
余所行きの服を着た彼女の姿がこちらを見て驚いていて、

こちらからひらひらと手を振る

「悪いな」

『もう…親居ないから、そのまま入ってきていいよ』

お出迎えしてくれないんすか。

なんて思いながら

「じゃあ、お邪魔します」

そう言い通話を切って彼女の家に踏み入れる








「なーに、落ち込んでんの。元気ねえじゃん」


部屋に入ると、ベッドの淵に腰掛けて俯いていた彼女が
こちらを一瞥して、また視線を元に戻した



『…今日は会いたくなかった』

「何で、」


そう言うと、黙り込む彼女



『今日の私…最低だから、』

小さく呟いたその言葉を、彼女の一瞬悲しみに歪んだその表情を、
俺は見聞き逃さなかった




「A、」

『…なに、』

静かに隣に腰掛け、彼女の肩を抱く



「キスしていい？」

そう言うと、一瞬瞳が揺れ、そっぽを向く



『…ごめん、』

その瞳に、
どこか赤葦が映っているような気がして、
許せなかった




・

16 閉じ込めて、心→←14 黒い

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す