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A side
河本くんに手を振り、外へと出るともうすっかり暗くなってしまった夜空が私を迎え出てくれる。
ビルの光で決して綺麗とは言い難い空を見上げ、片手で数えられるほどしか見えない星に小さな声で問いかける。
「ねぇ、零は、私のこと、本当に好きなの…?」
届くはずのない問いかけには答えなんて返ってくるはずもなく、私は自嘲気味に小さく笑った。
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一瞬で変わっていく景色を電車の窓から眺め、やんわりとした自分の天然パーマ気味な髪を指に巻きつける。
今の時間帯だと、帰りのラッシュも終わっていて、乗車客もまばらだ。
空いている席には座らず、ドアの横のちょっとした場所に体重を預け、窓を眺める。
外が暗いから、景色よりも電車内をまるで鏡のように写し出す窓には、酷く可愛げのない顔をした自分の顔があった。
誰、この無愛想で可愛くないのは、誰?
瞬間自分でも疑ってしまうほどの普段との変わりように、自分が零の些細な一言でどれだけ傷付いたのかが分かる。
情けないな…、今までもっと辛いことがあったはずなのに…。
今の私の顔が1番苦しそう…。
自分のこんな格好悪い顔を見るのも嫌になり、窓を見るのをやめ、車内へと体を向けた。
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自分のマンションへと重い体を進め、ようやくエントランスへ辿り着く。
このマンションは、警察学校時代の同期達と選んだマンションだった。
『Aは、ちィっと無防備だからなぁ。』
爪楊枝を咥えながらそう言った老け顔。
『お前はドジだから相手の気配に気付くのも遅れんだろ。』
いつも通りグラサンをかけた天然パーマ。
『Aは、寝坊するから駅からなるべく近いところがいいだろうな。』
タレ目でサラッサラのロン毛。
『Aが安心して暮らせるように、警備がちゃんとしてるところがいいよな。』
ツリ目で少し薄い無精髭。
『俺たちがいつでも泊まれるように広い部屋。』
最後の、この図々しいのは、金髪イケメン野郎。
皆のことを思い出しながら、明るいエントランスを通りエレベーターへ乗り自分の部屋へと向かった。
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玄関を開け、中に入ればどうしようもない虚無感に襲われる。
皆がいつ来てもいいように、と広めの部屋にしたのに、その来るはずだった人はもうこの世にいなくて。
自分の体をギュッと抱き締め、歯を食いしばる。
そうすることで、溢れかける涙を堪えた。
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いちごって美味しいよね - あっさんさん» すみませんでした!うっかり見落としていて…。教えてくださって本当にありがとうございます! (2018年8月6日 23時) (レス) id: 9e74247a01 (このIDを非表示/違反報告)
いちごって美味しいよね - ういさん» 感動していただけたことに感動です!!恋愛って自分が思ってるより、案外難しいんですよね…。応援よろしくお願いします! (2018年8月6日 23時) (レス) id: 9e74247a01 (このIDを非表示/違反報告)
うい - 少し泣ける所もありました。感動です! 恋愛って難しいですね。 次の更新楽しみにしてます (2018年8月2日 23時) (レス) id: ab4f966f00 (このIDを非表示/違反報告)
あっさん(プロフ) - こんにちは、すごく面白そうで見てみようと思ったのですが主人公の名前変えられる様にしてもらえないでしょうか、、汗 (2018年8月1日 1時) (レス) id: dd857b1956 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いちごって美味しいよね | 作成日時:2018年7月28日 0時