count 32 ページ32
降谷 side
気を取り直して、スタスタと歩調を速めるAの隣に追いつき顔を覗き込んでみる。
俺より背が大分低いAの歩みに追いつくのなんて簡単で、追い抜きそうになった足の速度を落とした。
俺に覗き込まれるのが予想外過ぎたのか、Aは目を見開いてからプイッとそっぽを向いた。
…女心って、わからん。
肩を抱き寄せてみようかと手を出してみれば、その腕はスパンッと叩き落される。
何度もチャレンジするも、こうも叩き落されれば、流石に切なくなってくる。
あ、肩を抱き寄せるのが不味いなら、手を繋いでみればいいのか。
スルリとさりげない動作でAの細い手に自分の指を絡めれば、Aの手は先程とは違う行動に反応しきれずに呆気なく俺の手に捕まった。
「…なに、零。可愛気ない女なんて置いてけばいいじゃない。」
手をブンブンと振り解こうとするAの声は震えていて、俺の心は柄にもなく焦りだした。
「A、悪かった。可愛気ないなんて嘘だから。な?」
「…嘘つき。手、離せ馬鹿野郎。」
「馬鹿野郎じゃないから、離さない。」
Aにどうしても手を離さないという俺の意思が伝わったのか、暴れるのはやめてくれた。
だが、握り返してくれない。
Aがよくやる例え話で言うと、こんな感じだ。
[お年寄りに勇気を出して席を譲ったのに、そのお年寄りにやんわりと断られる]
この、さりげなく虚しい感じ。これが今の俺の心中だ。
スーパーに着いても終始無言を貫くA。
「…A?」
これじゃあ車内と真逆な事を繰り返してるだけのいわゆる、デジャヴだ。
.
結局レジに並んでも、帰り道でも、口を聞いてもらえずに、お互い無言のままエレベーターに乗っている今に至る。
Aの部屋がある階に着いても、俺に一切の笑顔を見せずにスタスタと歩いて行くA。
部屋には入れてくれるようだから、安心はするものの、やはりここまで無視を決め込まれると俺も我慢の限界なわけで。
玄関に入ってすぐに背中を向けるAを抱き寄せ、肩口に顔を埋めた。
何故か抵抗を全くしないAを不思議に思い、横顔を盗み見ると、意地悪く上がっている彼女の口角。
「A…?」
「ぷっ…あははっ!!」
「…は?」
腕に収まっている彼女は、俺が聞こうと努力した、綺麗な声を響かせながらコロコロと笑っているじゃないか。
.
605人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いちごって美味しいよね - あっさんさん» すみませんでした!うっかり見落としていて…。教えてくださって本当にありがとうございます! (2018年8月6日 23時) (レス) id: 9e74247a01 (このIDを非表示/違反報告)
いちごって美味しいよね - ういさん» 感動していただけたことに感動です!!恋愛って自分が思ってるより、案外難しいんですよね…。応援よろしくお願いします! (2018年8月6日 23時) (レス) id: 9e74247a01 (このIDを非表示/違反報告)
うい - 少し泣ける所もありました。感動です! 恋愛って難しいですね。 次の更新楽しみにしてます (2018年8月2日 23時) (レス) id: ab4f966f00 (このIDを非表示/違反報告)
あっさん(プロフ) - こんにちは、すごく面白そうで見てみようと思ったのですが主人公の名前変えられる様にしてもらえないでしょうか、、汗 (2018年8月1日 1時) (レス) id: dd857b1956 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:いちごって美味しいよね | 作成日時:2018年7月28日 0時