検索窓
今日:5 hit、昨日:14 hit、合計:199,590 hit

第伍拾陸話 ページ9

.




朝日を感じてそっと瞼を上げると、腕の中に眠るAはまだ起きる気配を見せなかった。

光に照らされると、彼女が負った痛々しい傷が目に入る。

巫女がAの身体を浄化している間に、傷が膿むと悪いからと言って彼女の傷口に、退治屋の女が処置を施してくれた。


血は綺麗に拭われているものの、顔にまで複数付いている切り傷は白い肌のせいもあり、中々に痛々しかった。


「…この傷が、私に付いたものならば、この様に痛々しくはならなかったろうにな。
もう少し早く、駆け付けたかった……」


誰にも聞かれることの無い小さな呟きは、朝の澄んだ空気に消えて行く。

ここで彼女に目を覚まされても困るのだが、一刻も早く笑っている顔や、柔らかい声が聞きたかった。


暫くAを眺めていると、不意に眠っていたはずの巫女の匂いが近付いてきた。


「おはよう、殺生丸。
…Aちゃんは、まだ目覚めなそう?」

「…あぁ。以前も、自分の器を気にせずに力を使い切った事がある。
その時は、半日目覚めなかった。」

「今回は、瘴気にも当てられてるものね。
…いつ目覚めるかは、分からない、か。」


巫女の言う通り、Aはいつ目覚めるか分からない。

それまでの間は、Aに万が一の事があっても大丈夫なように、犬夜叉一行と旅を共にするのが吉だ。


「…目覚める迄の間だが、世話になる。」

「ふふ、分かってるわ。私もAちゃんには色々借りがあるもの!
精一杯頑張るわ。」

「…そうか。」


暫くの沈黙を挟んで、突然巫女が私の隣へと腰を下ろした。

そして、私の腕の中のAをじっと見つめて、突拍子もなく口を開いた。


「本当に、綺麗な顔をしてるわよね。Aちゃん。」

「………そうだな。」

「今にも消えちゃいそうな、そんな儚さも持ってる。でも、Aちゃん自身は、とっても強い意志を持ってるわ。」

「……そうだな。」

「殺生丸は、幸せね。



こんなに素敵な子に出逢えて。」

「…あぁ。」






.

第伍拾漆話→←第伍拾伍話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (427 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
677人がお気に入り
設定タグ:犬夜叉 , 殺生丸
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

1003 Nina(プロフ) - 一気に読ませていただきました。美しい終わり方で暖かい気持ちになりました。別作品も読ませていただきたいと思います! (2022年3月30日 2時) (レス) @page19 id: 85e410e486 (このIDを非表示/違反報告)
月篠 - もう最後泣いちゃいました。とても面白かったです!! (2020年8月17日 10時) (レス) id: 776853be40 (このIDを非表示/違反報告)
0wh790112p351y(プロフ) - もう最後泣きました、殺生丸様来た時泣きました。めちゃくちゃ面白いです! (2020年5月31日 10時) (レス) id: ff99cc9e63 (このIDを非表示/違反報告)
いちごって美味しいよね(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます。嬉しいです(´∇`)更新頑張らせて頂きます! (2020年5月28日 1時) (レス) id: afb320640f (このIDを非表示/違反報告)
ねこ(プロフ) - とても面白かったです。おもわず一気見してしまいました。これからの更新も楽しみにしてます。 (2020年5月27日 12時) (レス) id: b2104f9538 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:いちごって美味しいよね | 作成日時:2019年5月1日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。