第伍拾陸話 ページ9
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朝日を感じてそっと瞼を上げると、腕の中に眠るAはまだ起きる気配を見せなかった。
光に照らされると、彼女が負った痛々しい傷が目に入る。
巫女がAの身体を浄化している間に、傷が膿むと悪いからと言って彼女の傷口に、退治屋の女が処置を施してくれた。
血は綺麗に拭われているものの、顔にまで複数付いている切り傷は白い肌のせいもあり、中々に痛々しかった。
「…この傷が、私に付いたものならば、この様に痛々しくはならなかったろうにな。
もう少し早く、駆け付けたかった……」
誰にも聞かれることの無い小さな呟きは、朝の澄んだ空気に消えて行く。
ここで彼女に目を覚まされても困るのだが、一刻も早く笑っている顔や、柔らかい声が聞きたかった。
暫くAを眺めていると、不意に眠っていたはずの巫女の匂いが近付いてきた。
「おはよう、殺生丸。
…Aちゃんは、まだ目覚めなそう?」
「…あぁ。以前も、自分の器を気にせずに力を使い切った事がある。
その時は、半日目覚めなかった。」
「今回は、瘴気にも当てられてるものね。
…いつ目覚めるかは、分からない、か。」
巫女の言う通り、Aはいつ目覚めるか分からない。
それまでの間は、Aに万が一の事があっても大丈夫なように、犬夜叉一行と旅を共にするのが吉だ。
「…目覚める迄の間だが、世話になる。」
「ふふ、分かってるわ。私もAちゃんには色々借りがあるもの!
精一杯頑張るわ。」
「…そうか。」
暫くの沈黙を挟んで、突然巫女が私の隣へと腰を下ろした。
そして、私の腕の中のAをじっと見つめて、突拍子もなく口を開いた。
「本当に、綺麗な顔をしてるわよね。Aちゃん。」
「………そうだな。」
「今にも消えちゃいそうな、そんな儚さも持ってる。でも、Aちゃん自身は、とっても強い意志を持ってるわ。」
「……そうだな。」
「殺生丸は、幸せね。
こんなに素敵な子に出逢えて。」
「…あぁ。」
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1003 Nina(プロフ) - 一気に読ませていただきました。美しい終わり方で暖かい気持ちになりました。別作品も読ませていただきたいと思います! (2022年3月30日 2時) (レス) @page19 id: 85e410e486 (このIDを非表示/違反報告)
月篠 - もう最後泣いちゃいました。とても面白かったです!! (2020年8月17日 10時) (レス) id: 776853be40 (このIDを非表示/違反報告)
0wh790112p351y(プロフ) - もう最後泣きました、殺生丸様来た時泣きました。めちゃくちゃ面白いです! (2020年5月31日 10時) (レス) id: ff99cc9e63 (このIDを非表示/違反報告)
いちごって美味しいよね(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます。嬉しいです(´∇`)更新頑張らせて頂きます! (2020年5月28日 1時) (レス) id: afb320640f (このIDを非表示/違反報告)
ねこ(プロフ) - とても面白かったです。おもわず一気見してしまいました。これからの更新も楽しみにしてます。 (2020年5月27日 12時) (レス) id: b2104f9538 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いちごって美味しいよね | 作成日時:2019年5月1日 2時