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第陸拾参話 ページ16

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彼が立った夜、私は眠ることが出来なかった。

殺生丸と出会ってからというもの、当たり前のように傍にいてくれた温もりが傍にはいない。

酷く寂しくて、虚しくて。


私ひとりで寝転がるには十分すぎる程の広さの褥の上で何度も寝返りを打った。

そんな私を心配してか、蘭丸がそっと私の傍に寄り添うように丸まる。


「蘭丸も、寂しいわよね…。」


もう既に寝息を立て始めた温かい毛玉をそっと抱き寄せて、少しでも寂しさを紛らわせようとしている内に、いつの間にか眠りについてしまっていた。






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朝、目が覚めても私の頬を撫でてくれる手はなかった。

可愛らしい鳥のさえずりさえも、今は私の孤独を煽るだけだ。



私は独りで、巫女としてこの地に降り立った。

霊力があったお陰で、こうして見知らぬ時代の見知らぬ土地でも 行く先々で人の役に立てたけれど、こうどこにも行けないと何をしていいのかが途端に分からなくなってしまう。


きっと彼なら、何をしててもいい、そう言うのだろう。

けれど、意味なんてまるでない行動は全て彼がいるから楽しくて、私の中に意味を築いていったのだとふと気付いた。




美しい庭を見るのもいいかもしれない。

厨を借りて料理をしてみるのもいいのかも。

短歌なんて読んでみるのも味があるのかもしれない。



でも、貴方と過ごすなんでもない時の方が何倍も楽しくて素敵だった。



あと何日待つのだろう。

私がこんなに寂しい思いをしていたなんて知ったら、きっと殺生丸は私の傍をもう離れないでいてくれる。

彼は、優しいから。


「そうだわ……、」


それなら日記を書こう。

短歌なんかも添えて。

私の味気ない毎日を、いつか彼に伝えられるその日まで毎日綴ろう。


文机に向かい、筆を和紙に滑らせている私の手元にひらりと、桜の花弁が舞ってきた。

庭に咲く大きな桜。

昨日は気付くことが出来なかったけれど、もう8分咲きだろうか。

もうそろそろ散って、葉へと姿を変えてしまう。


「……あと何度、1人でこの桜を見るんでしょうね。」

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1003 Nina(プロフ) - 一気に読ませていただきました。美しい終わり方で暖かい気持ちになりました。別作品も読ませていただきたいと思います! (2022年3月30日 2時) (レス) @page19 id: 85e410e486 (このIDを非表示/違反報告)
月篠 - もう最後泣いちゃいました。とても面白かったです!! (2020年8月17日 10時) (レス) id: 776853be40 (このIDを非表示/違反報告)
0wh790112p351y(プロフ) - もう最後泣きました、殺生丸様来た時泣きました。めちゃくちゃ面白いです! (2020年5月31日 10時) (レス) id: ff99cc9e63 (このIDを非表示/違反報告)
いちごって美味しいよね(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます。嬉しいです(´∇`)更新頑張らせて頂きます! (2020年5月28日 1時) (レス) id: afb320640f (このIDを非表示/違反報告)
ねこ(プロフ) - とても面白かったです。おもわず一気見してしまいました。これからの更新も楽しみにしてます。 (2020年5月27日 12時) (レス) id: b2104f9538 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:いちごって美味しいよね | 作成日時:2019年5月1日 2時

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