第陸拾壱話 ページ14
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「…起きていたのか。」
「ごめんなさい、盗み聞きするつもりは無かったんです。
でも、殺生丸様があたしの名前を呼んだから、返事をしなくちゃと思って。」
「すまない、起こしてしまったようだな。」
「いいえ、殺生丸様は何も悪くありませんよ。謝らないで下さい。」
私の頬を伝う涙を見て、彼はあからさまに切なそうな表情で眉を寄せた。
そんな彼の頬を、そっと指で撫ぜる。
「…あたしを、待っていて下さると言ってくれた時、本当に嬉しかった……。
このまま死んでしまっても構わないとも思いました。」
「お前に死なれては、私が困る。」
殺生丸は長い睫毛を伏せて、私にされるがままに撫でられている。
そんな姿を見ると、どうしてもこの人の傍に居たくなった。
彼の思いを全て、聞いてしまったのに。
「ふふっ、私の存じ上げている殺生丸様は、そんなにか弱い御方ではありませんよ。」
すっと、切れ長の美しい琥珀に見つめられた。
殺生丸の美しい琥珀に、私が閉じ込められている。
「…お前に出逢ってからだ。私がこの様になったのは。」
「あたしのせいですか？」
少しおどけて問うてみれば、殺生丸は表情を崩した。
まるで花が開くように。
「そうは言っておらぬ。お前に出逢えて、私は心の底から幸せだ。」
ふわりと抱き締められて、止まった筈の涙がまた零れた。
きっと近々、この人と離れなければならなくなる。
また会えるとも分からない別れ。
この愛おしい人の匂いを嗅げなくなる。
柔らかい尾で包んでもらうことも出来なくなる。
逞しい胸に収まることも出来なくなる。
名前を呼んでも振り向いて貰えなくなる。
きっと、夜も眠れなくなるのだろう。
食だって進まないかもしれない。
どこかで貴方が怪我をしているかもしれない。
どこかで巫女に討たれてしまうかもしれない。
心配の耐えない日々が続くだろう。
それでも。
「……あたしも、貴方の帰りをずっと。何年だって。
命の灯火が消えるその時まで、待っています。」
殺生丸の瞳をじっと見つめてから私は、その薄い唇へとそっとキスを落とした。
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1003 Nina(プロフ) - 一気に読ませていただきました。美しい終わり方で暖かい気持ちになりました。別作品も読ませていただきたいと思います！ (2022年3月30日 2時) (
レス) @page19 id: 85e410e486 (このIDを非表示/違反報告)
月篠 - もう最後泣いちゃいました。とても面白かったです!! (2020年8月17日 10時) (レス) id: 776853be40 (このIDを非表示/違反報告)
0wh790112p351y(プロフ) - もう最後泣きました、殺生丸様来た時泣きました。めちゃくちゃ面白いです！ (2020年5月31日 10時) (レス) id: ff99cc9e63 (このIDを非表示/違反報告)
いちごって美味しいよね(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます。嬉しいです(´∇｀)更新頑張らせて頂きます！ (2020年5月28日 1時) (レス) id: afb320640f (このIDを非表示/違反報告)
ねこ(プロフ) - とても面白かったです。おもわず一気見してしまいました。これからの更新も楽しみにしてます。 (2020年5月27日 12時) (レス) id: b2104f9538 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いちごって美味しいよね | 作成日時：2019年5月1日 2時
