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第伍拾玖話 ページ12

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殺生丸の尾に包まれてまた浅い眠りへと意識を落としたAちゃんを抱いた殺生丸と 私たちの間に静かに風が吹く。

その風に攫われたAちゃんの髪を、1本1本愛おしそうに見つめる殺生丸が、ふと口を開いた。


「…Aは、屋敷に置いて行こうと思う。」

「…本当に言ってるのかい?殺生丸。」


自分の耳を疑った。

あれ程までにAちゃんを大切にしている殺生丸が、Aちゃんを置いて行こう、だなんて。
信じられるわけがない。

それに、それではAちゃんが可哀想だ。


「どうして?そんなのあんまりよ。Aちゃんが知ったら、どう思うか…。」


珊瑚ちゃんの怒りに染まりかけた声にも、あたしの感情を抑えた声にも、殺生丸は静かに答えた。


「危険に、巻き込みたくはないのだ。」

「だからって…!!」

「珊瑚。あまり責め立てるのはあまり良くないですよ。」


殺生丸へ詰め寄ろうとした珊瑚ちゃんを、弥勒様が後ろからそっと留めた。

肩に触れたその手に、珊瑚ちゃんも振り返り反応する。


「法師様…!でも……」

「大切だからこそ、危険な場所へは連れて行けない。
…分かってやりなさい。」


弥勒様の言葉に、私はもうこれ以上 何も言うことが出来なくなってしまった。

それは珊瑚ちゃんも同じだったようで。

私たちの間にはまた再び、静寂が訪れた。


「…悪かったね、殺生丸。深入りしすぎたよ。」

「…構わん。」


殺生丸は私達に言葉をぶつけられている時でさえ、Aちゃんから目を離さなかった。

そんな姿を見て、珊瑚ちゃんは少し早足にこの場を離れて行った。



「…お前は彼奴の元へ戻らぬのか。」

「ええ。…一つだけアンタに聞いておきたいことがあるの。」

「……なんだ。」


息を深く吸い込み、言葉を発する用意をする。

これはきっと、Aちゃんも抱えている不安だから。
けれど、Aちゃんはこの不安を殺生丸に投げかけたりはしない筈。

それなら、私が代わりに。


「知ってるとは思うけど、Aちゃんはあたしと同じで、数百年の時を飛び越えてこの地に降り立った子よね。
どういう経緯で、なんの理由でこの地に来たのか、Aちゃんは全く知らないみたいだった。
もし、もしもの話よ。
アンタがAちゃんを置いて行った時…、目を離している隙に、Aちゃんが元の時代へ戻ってしまったら。
その時、殺生丸はどうするの?」

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1003 Nina(プロフ) - 一気に読ませていただきました。美しい終わり方で暖かい気持ちになりました。別作品も読ませていただきたいと思います! (2022年3月30日 2時) (レス) @page19 id: 85e410e486 (このIDを非表示/違反報告)
月篠 - もう最後泣いちゃいました。とても面白かったです!! (2020年8月17日 10時) (レス) id: 776853be40 (このIDを非表示/違反報告)
0wh790112p351y(プロフ) - もう最後泣きました、殺生丸様来た時泣きました。めちゃくちゃ面白いです! (2020年5月31日 10時) (レス) id: ff99cc9e63 (このIDを非表示/違反報告)
いちごって美味しいよね(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます。嬉しいです(´∇`)更新頑張らせて頂きます! (2020年5月28日 1時) (レス) id: afb320640f (このIDを非表示/違反報告)
ねこ(プロフ) - とても面白かったです。おもわず一気見してしまいました。これからの更新も楽しみにしてます。 (2020年5月27日 12時) (レス) id: b2104f9538 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:いちごって美味しいよね | 作成日時:2019年5月1日 2時

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