第153話 手にした一振り ページ33
『(……何にしても、この文様にどのような効果があるのかは
わからないから良いとして、気になるのは──)』
最初に、彼女の目の前に突き立てられている瑠璃色の剣だ。
通行人の様子を見る限り、どうやら人間達にはそれが見えていないらしい。
というか、見えて居たら今頃大騒ぎか。
『(……取って、良いのかな)』
──否、取るか取らないかと言うより彼女の好奇心が勝った。
深く考える前に、片手が目の前の剣に触れる。
＜…………A、＞
『…………!!』
剣に触れた瞬間、これもまた彼女にとってよく聞き慣れた声が脳裏に響き渡った。
Aはそのまま、聞こえて来る声に意識を向ける。
＜これが、今回の事件での──“お前”という存在があった証になる＞
『…………オロチ……』
聞こえてきたのは、まさに“彼”の声だった。
もしかして、この剣をこの場所に残したのは──
『…………』
──気を引き締めて、剣の柄を両手でしっかりと握りしめる。
そして瑠璃色の剣を引き抜こうと、力を入れた。
……それは案外簡単に引き抜けて、彼女の手の中に納まる。
剣はAに呼応するかのようにして、一瞬、強い輝きをもった。
『……(そうか……このまま、皆に会いに行くという事も出来るんだ)』
瑠璃色の剣を残した“彼”にも、かつて友達になった妖怪達にも。
もう、見知った人間達と以前のように会うことは出来ないが。
だがAは強く首を横に振ると、気を持ち直し。
『(まずは、今の状況をよく見極めることが優先だ)』
辺りを見渡した彼女は、ふと視界に入ったものに注意を向けて、それを凝視する。
彼女が視線を向けた先では、偶然にある家の二階の窓の
カーテンが開け放たれており、室内が見えていた。
立ち位置的に、窓の奥には部屋の壁が見え
壁には一つのカレンダーが掛けられている。
ただ……それをじっと見つめていたAの目が
やがて、心の底から驚いたように見開かれた。
信じがたい現実が、容赦なく彼女に突きつけられた瞬間だった。
『……う、嘘だ……!!』
実のところ──彼女が一度、人間として命を落とし
それから妖怪となって、再びこの世に戻って来た時。
その間に現代では、彼女が息絶えてから既に十年の月日が経とうとしていた。
──通りで。
雨や雪が降って居なかった筈の今日は、
今から見れば十年も前に過ぎ去っていたことだったのだ。
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作者名：フェイル | 作成日時：2015年8月1日 0時
