第151話 帰還のための糧 ページ31
──白い霧が彼らのやり取りの妨害にはなっていたが、
それでも互いの気配を掴み取ることは出来た。
息を呑んだAに、エンマ大王は小さく笑う。
『…………未、練』
『どのような経緯を辿って来たか。話してみよ』
動揺を隠せないAだったが、
それに対してそっと促すようにして語りかけた相手。
彼女は戸惑いながら、ここに来るまでに辿って来た道を
出来るだけ簡潔にまとめて答えた。
『……そうか……そのような事が現状に起こっている中では
やはり、人間界と妖魔界を知るお前が必要になるだろう……』
呟くような声で言うエンマ大王の声を聞きながら、再び俯く。
……そう、欲を言うのであれば──
せめて、あの一件の片をつけるまでを……見届けられたら。
『私だって……あの世界を、あのまま放っておくなんて……』
当然ながら、それは彼女の望むところではない。
だが仕方がないのだ。彼女は自ら命を落とすことを選んだ。
──少しでも、次へと繋がる時間を稼ぐために。
『ならば、人間。……お前をそのまま“この世”へ戻してやることは
出来んが、妖怪となれば──再びあちらへと帰る道もあるぞ?』
『へ…………?』
思わぬ提案をされて、素っ頓狂な声を上げながら目の前の影を凝視した。
そんな彼女の声に、エンマ大王は再び笑って続ける。
『私は“エンマ大王”だ。まだこの狭間に居られる今なら、
この私の力でお前を妖怪とし、あの世界へと戻してやれるだろう』
『……私が、妖怪に……?』
そうか、エンマ大王の元々の役割はそこにあった。
彼の力で妖怪になれれば、もしかしたらイカカモネと戦うことも出来るかも……
『(……いや、ちょっと待て)』
とすると、自分は一体どのような妖怪になる?
別に妖怪になったからと言って、妙なとりつき能力が必要だとか
そんな訳ではないが、しかし要らないという訳にもいかない。
『くっ……! 凄くそうして欲しいのは山々だけど
でもそれで変な妖怪になったら凄くやだ……!!』
『ハハハっ。ならば、お前にあるその強い“正義”を糧にしよう』
あくまでも真剣に悩んでいる彼女に、思わず笑い声を上げてしまうエンマ大王。
だがそれは気にせず、どちらかというと
彼の話の方が気になったAは、首を傾げさせ。
『……糧、というのは?』
『それが、お前の妖怪としての性質となるんだ。妖怪となった
お前にとっての“正義”は糧となり、また、お前の力となるだろう』
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作者名：フェイル | 作成日時：2015年8月1日 0時
