第150話 白い霧の向こう ページ30
その声は……多分、後ろから聞こえてきた。
と思い至って、すぐさま背後を振り返ると。
『ん……?』
確かに、誰か居た。ただ白い霧のせいで、影しか見えない。
どんな顔をしているのか、どんな姿なのかもわからなかった。
『……あの、そっちは……一体?』
『……む。声がしたと思えば、やはりか』
返ってきた声は、どこか嬉しそうな──
それでも悲しみを帯びたものだったように思えた。
続いて相手はAの疑問に答えようと、言葉を繋げる。
『私は、妖魔界を治めていた──』
『──ええーっ!? そうなんですかーっ!?』
『……まだ名前を言っていないのだが……』
『……え、あ、ついフリかと思ってしまって……』
すいません、と恥ずかしく思いながら謝るAは
自らの条件反射を恨んだ。
しかし再び顔を上げてから、改めて冷静になって声を放つ。
『でも、わかる気がする。今、そこに居るのは……エンマ大王だ』
『!! ……もしや、お前がオロチの話していた』
もしかすると相手からも、こちらの姿はわからないのかもしれない。
しかしAが“オロチ”の名を聞いて俯きがちになった
影が見えてか、朗らかな様子だった相手の気配が変わった。
『しかし、何故お前ほどの人間がこのような所に?』
『……わからない。私には、ここが一体何なのかも。
ただ……命を落としてしまったという事だけが、事実で』
『…………そうか』
わずかに沈んだ相手の声が返された。
そういえば……エンマ大王も息を引き取ったと
例の──イカカモネから聞かされた覚えがあるが、まさか──。
『ここは、お前達人間が言うところの
“あの世とこの世の狭間”とでも言ったところか』
『死んでいるわけでもなく、生きているわけでもなく
……という事か。だとしたらやはり、そちらも……』
『いつかは迎えるべき死期を迎えたのだ』
──成程、イカカモネの言っていた事は嘘ではなかったらしい。
エンマ大王は為すべきことを為し、息を引き取ったのだ。
『しかし……お前のような者が失われるという事は、
私にとって何よりも嘆かわしい……』
『……申し訳ないよ。そちらの本来の願いを届けられないまま……』
それは、出来れば私だって──
『──“この世”に、未練があるか?』
『…………!!』
目を伏せて思いを募らせていたAに、エンマ大王の問いが投げ返され
途端に息を呑んだ彼女の気配を察した相手は、小さく笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 63人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：フェイル | 作成日時：2015年8月1日 0時
