第136話 使えない ページ16
「チュッチュッチュ♪ まさかそれを投げつける気っチュっか?
そんなの、僕にかかれば簡単に避けられ…………──」
腹を抱えて笑っていた厄怪は尚も余裕気な笑みを浮かべていた。
──浮かべていたが、やがてくるくると目を回してよろめき始める。
「し、しまったっチュ……! お前等を見てたら、目が回って……!」
……そんな馬鹿な、とAは厄怪の言葉に耳を疑った。
しかし咄嗟に背後を振り返ると、大きく声を放つ。
「ジバニャン!!」
「行くニャー!!」
「うぃぃぃぃいいい!?」
振り回されたウィスパーは、ジバニャンが手を離した
ホースごと遠心力で吹っ飛ばされた。
上手く狙いを定めたのか、それは目を回していた厄怪に直撃。
「ぐは…………!」
非情に痛々しい鈍い音がして、何故かケータが思わず頭を抱えた。
ケイゾウも苦い顔をして後ろ頭をさすったが、厄怪が地面に倒れたのを見ると
途端に嬉しそうに笑い、両手に拳を握って喜んだ。
「凄い! 本当にホースが役に立った!」
──別に紐だったならホースじゃなくても良かっただろう。
例えそう思ったとしても、嬉しそうに笑っている
ケータの姿に免じて、Aは決して口には出そうとしなかった。
「こ、この程度……! お前等から体力を吸い取ってすぐに挽回してやるっチュ!」
厄怪は相手の体力を奪う吸収の力、死神の術が使える。
そう声を荒げた相手に、術の対象となるA達が緊張して身構えた。
だが不意に、そんな厄怪に一つの悲報を告げる声が降りかかる。
「あらら、残ー念! 君はもう吸収の術は使えないんだな〜これが」
「「!!」」
その声に反応したのは、この平原に駆け付けて来たケータ達全員。
驚いて目を見開くと、そんな彼らの目の前に紫の靄が発生し
──靄からは例の少女の後ろ姿が現れ、
また厄怪は非常に焦った様子で自らの両手を見つめる。
「ど、どうしてっチュ!? まさか、怪魔のエリートである……
この僕がたかが妖術を使えないなんて……! この僕が、負けちゃうだなんて……!」
「あははっ! 良い漫才だったよ、みんな」
相手が動き出すのを警戒してか、平原に現れた少女は
常にA達に背を向けて厄怪と向き合っていた。
ようやく見えた姿でも、わかるのは肩くらいまでの髪色が黒であった事くらい。
しかし少女のシルエットを見ていた彼らには、その後ろ姿と声でわかる。
「……またお前か」
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作者名：フェイル | 作成日時：2015年8月1日 0時
