第50話 当時と今の思い ページ10
「……よりによってお前が、人と妖怪との隔たりを感じていたというのか」
目を伏せながら言った彼女の言葉を聞いて、オロチは困惑していた。
自分の頼みがあったとは言えど、自ら妖怪ウォッチの制作にとりかかり
妖怪達に関わり合うようになった彼女の口から、こんな差別的な言葉が出るとは。
「人と妖怪は分かり合えるという事に、特別、違和感はなかった。
けれど……やっぱり、心のどこかで戸惑っていたのかもしれない」
──妖怪と友達になれる事は、とても嬉しかった。
しかしそういう面でも、彼女は妖怪を特別視していた面が
あって、それが顕著に出て居たのかもしれないと思っている。
「ただ、人のまま、いつしかそんな戸惑いは必要無いものだってわかったのも
……この気持ちを受け入れられたのも……全部、オロチのお蔭なんだ」
「…………と、いうのは……」
やはり先ほども言っていたように、あの答えは──。
そう心の内で続けたオロチに視線を返し
小さく微笑んだAは、答える代わりにまた別に話を続けた。
「それに……多分、お蔭で安心していた事もあったと思う」
オロチは、自らの身を顧みない自分に苛立っていたかもしれない。
──その一方で、彼女は安心してしまっていた。
何が起こったとしても、そこには自分や約束を守り通そうとする彼が居たから。
自分がどこかに迷い込んでしまった後も、同じ場所に在り続けてくれたから。
……そこまで続けて、そして更にどう切り出すべきか悩んだAは
困ったように笑っては、軽く肩を竦めさせた。
「──何だか、改まって言うのも気恥ずかしいな」
「……そういう性分でも無かったろうに」
じっと彼女の話を聞いていたオロチも、彼女の様子を見て途端に小さく笑う。
だが、既に二人はお互いに相手の答えを聞いていたし、もうわかっていた。
オロチもAも、相手の事が“好きだった”のだ──この今と、同じように。
「ありがとう、A。──改めて、よろしく頼む」
「こちらこそ。……よろしく」
どちらからともなく互いに目を合わせた彼らは、
微笑み合ってその片手同士を取り合う。
──そうして取り合った両者の手からは、確かな熱が伝わっていた。
いつしか思い合っていた遠い過去での二人の仲が
今また、その当時のように……それ以上に、深まろうとしているのだ。
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作者名：フェイル | 作成日時：2015年6月25日 0時
