第76話 零式 ページ36
『妖怪ウォッチを完成させるって言ってんだ、少年ビート……!』
『──ケイゾウ……! フッ、素直じゃないヤツだな』
『ありがとう、爺ちゃん!』
『!? 爺ちゃんじゃない! ケイゾウだ!!』
斯くして、どうにかケイゾウに妖怪ウォッチの制作に取り掛かってもらう事に
成功した一行は、机に向かって作業を進めている彼の背を見つめている。
「妖怪ウォッチの誕生に立ち会えるなんて夢のようですね。感動ものです!」
「──これでよし……っと」
小屋の中で寛いで、体力を回復させながら待つ事、数時間。
ウィスパーが始終ワクワクした様子で待っている間に、
ケイゾウは満足気に笑うと立ち上がった。
「妖怪ウォッチ、完成したの?」
「まっ、“零式”ってトコだ。こいつはまだ試作品だからな」
身を乗り出したケータに、完成させた妖怪ウォッチが手渡される。
Aもケータの傍らから覗き込んで、
六十年前という時点でのその完成度の高さに舌を巻く。
「……“妖怪ウォッチ･零式”……!」
「さあ、少年ビート! コイツをつけてみろ!」
そしてケイゾウに促されて、ケータは彼から受け取った零式を身に付ける。
作られたばかりの妖怪ウォッチは、
開いた屋根から差し込む陽の光を受けて僅かに輝いた。
「うわぁ! じいちゃ……じゃなかった。ケイゾウ、ありがとう!!」
「──ケイゾウ。お前は零式を使わないのか?」
あっさりと渡されてしまったが、作った本人が使わないとは。
疑問に思ったフユニャンが何気なく聞くと、ケイゾウは躊躇う事無く頷き。
「当たり前だろ。俺には呼び出す友達妖怪なんか居ないんだからな」
「まだそんなこと言ってるニャン? なんて頑固なヤツニャ〜」
「とにかく、時計を作るのはこれっきりだ。俺は俺だけの力で怪魔と戦うんだ」
ここまでやってくれておいて、まだそう言い張るか。
むっとしたジバニャンが言うが、ケイゾウは意地になって聞かない。
……というよりかは、彼の中に何か固い
“信念”のようなものがあると、Aは感じていた。
「こっちは特訓で忙しいんだ。じゃあな」
「待て、ケイゾウ! お前に力を貸したい者は幾らでも居る。
──なのに、どうしてお前は……!」
悲しげに顔を歪ませたフユニャンが、
小屋を出て行くケイゾウの背に必死に声を投げかける。
──それでも答えは返って来なくて、フユニャンもまた
思わず小屋から飛び出して、彼の後を追った。
「フユニャン!? ちょっと待ってよ!」
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作者名：フェイル | 作成日時：2015年6月25日 0時
