第67話 ビー玉 ページ27
もしかすると、このただならぬ妖気を感じる鉄工所の内部で
何かが起こっているのでは──そう思考を巡らせたAだったが。
「フフフ……」
彼らが回って来た中でも、最後の出入り口らしき扉の前で
またもや一人の男性が佇んでいるのを目撃し、今度はケータが首を傾げる。
「……あれ? このおじさん、どこかで会ったような……」
「おもいで屋の店主ですよ! 覚えてないんですか?」
「…………おもいで屋の?」
ケータの疑問から、すぐさま答えを導き出したウィスパーに
Aもまた、その言葉を記憶の中から探り出す。
確かケータの話では、記憶を失くした時に迷い込んだ“おもいで屋”で
同じく失ってしまっていた妖怪ウォッチを購入し、取り戻したのだとか。
おもいで屋の店主の事を、彼は“おじさん”と呼んで説明していたが
それがこの、見た目不気味な印象を与える者の事だというのか。
「──ええ? でも俺がおじさんと会ったのは、この時代じゃないんだけど……」
ウィスパーの声で思い出したケータも、驚いて肩を竦めさせている。
彼が店主と会ったのは、現代と過去を行き来する方法をまだ知らなかった時。
要するに、現代に居たままの時のことだ。
「フッ。工場の人間をおかしくしとる妖怪なら、この建物の中に居るぞい」
「え? 妖怪?」
「妖怪が関わっているのであれば、黙って見過ごすわけにはいきませんね」
目の前の男性は、自身がここに居る訳をケータ達に答えなかった。
代わりに、先ほどの作業員のような者達の様子が
おかしかった理由を話し、彼らの気を逸らす。
「よし、建物の中に入ってみようよ」
「──では、このビー玉を持って行け」
「……ビー玉?」
「覗き込めば、普段は見えないもんを見えるようにしてくれるスグレモノじゃ」
何故、鉄工所に入ることになってビー玉を手渡されるに至るのか。
疑問に思いながら、男性からビー玉を受け取ったケータは
それを手のひらの上で転がしてみる──もちろん、何の変化も無い。
「きっとこの中で役に立つ筈だ。大事に持っておけ」
「あ、ありがとう……」
──Aは知らないが、この男性の奇妙さは
おもいで屋で出会った時と何ら違いがなかった。
しかし、その時はある意味で助けてもらってしまったのだからと
ケータは戸惑いつつも、素直にそのビー玉を受け取ることにしたのだ。
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作者名：フェイル | 作成日時：2015年6月25日 0時
