第66話 桜町鉄工所 ページ26
よく考えられたものだ、と内心驚きながら言うAの言葉は
コマじろうにも聞こえていたが、彼からすれば意味がわからないだろう。
だが、ふと何かを思い立ったのか、再び風呂敷に手を突っ込みながら言った。
「そうだ、お世話になったからおめぇらにもあげるズラ!」
「──でも、私達が貰っても良いのか? ケイゾウにあげる物では……」
「大丈夫! まだ鈴はあるズラ! だから気にせずに持ってくズラよ!」
戸惑うAに、そう鈴を渡してくれるコマじろうの人の良さは
本当に、この六十年後も全く変わっていない。
──その事を思って、思わず笑ってしまったAは鈴を受け取り、
コマじろうの頭をそっと撫でながらお礼を言った。
「……わかった。ありがとう、コマじろう」
「ズラズラ〜♪」
……照れたように笑う彼は、本当に愛らしい。
〜･〜･〜
一つの鈴を得た二人が駅の前に戻って来た時、
まだケータ達はその待ち合わせ場所には居なかった。
その為、Aとフユニャンは休みながら会話を挟んでいたが
話をしていると案外時間が経つのは早かったようで、直にケータが戻って来る。
『──チョーシ堂の御爺さん、六十年前と後とで全然変わってなかったよ!』
笑いながらそう話してくれたケータの言葉を聞いて、
“そういえばあの人も妖怪だったな”とAは思い出していた。
そんなケータが手に入れたのは、例の店主が名付けたところの
“セイコーン時計”という物──要するに腕時計そのものだ。
「……それで、問題はこの鉄工所な訳だが……」
「ここで部品になりそうな物なんて、沢山ありそうだけど……」
とりあえず中に入れば、何かわかるのだろうか。
だとしたら入り口はどこだ──とAやケータ達が
探し回っている途中で、すれ違った作業員の二人の声が耳に入った。
「はぁ……。しんどい……もう……働きたく……ないなぁ……」
「えへへ……仕事なんかほったらかして、今日は……遊びに行っちゃお〜……」
男性作業員は、そう話しながら鉄工所の近くを離れて行ってしまう。
彼らの会話を聞いてしまったケータ達は、
それぞれが訝し気な顔つきを見せながらそれを見合わせる。
「──どうも様子がおかしいですね」
一体何だったのだろうか──そう呟くウィスパーが
引き続き入り口を探すケータの後をついていく。
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作者名：フェイル | 作成日時：2015年6月25日 0時
