第52話 どうしようもなく。 ページ12
二人の声を聞いたAは、確かに六十年前に彼らが居たなら
今から過去へ戻った所で、自らという存在に遭遇し兼ねないと理解し
ふぶき姫と同じように困り果てて、僅かに眉を寄せた。
「……という事は、ケータ達だけで過去へ行くしかないのか」
「──確かにそうなるが。フェアネス……もとい、A。
ケイゾウを助けるためには、もしかしたら貴方の力も必要になるかもしれない」
六十年如きで容姿が変わらないのは、もちろんフユニャンも例外でない。
だから、彼自身もそれを理解した上で──ある考えがあった。
「……私の力が?」
「ああ。今、ケータが身に付けている妖怪ウォッチを作ったのは
Aという人間だったと、俺も話に聞いている」
──正しくは、チョーシ堂の店主の力を大いに借りて、だが。
今ここで口だけで説明をするのは難しいが、とにかく、ケータの下にもある
妖怪ウォッチの存在が危機に陥ったのを彼らも目の前にした現在、
それの制作に関わった彼女の力が必要になる可能性は大いにある──という事だ。
「(……それはつまり、六十年前に既にあった妖怪ウォッチも
また、その存在が危ぶまれているという話か……?)」
「……要するに、Aやケータ達を過去に連れ……
そして、私達はここに残らねばならないと?」
腕を組んで考え込んでいるAの耳に、龍神の声が飛び込む。
だがそれは当然ながらフユニャンに向けられたもので、
彼女の視線は自然と彼の下へと向けられた。
「同一人物の接触を避けなければならない以上……そうせざるを得ないのは確かだ」
「「「…………」」」
申し訳なさそうに目を伏せるフユニャンの答えに、一行は黙り込んだ。
ふぶき姫や龍神……また、ケータもAの様子を見つめる中で
オロチは既に何かを察した様子で、彼女に問いかける。
「行くのか」
「……行くしかないのだろう?」
考え込んでいたAは、彼の問いに言葉を濁すような答えを返した。
だが──その先は、皆まで言うまでもなく。
「すまない。協力してくれてありがとう」
フユニャンも彼女の言わんとするところを察して、小さく頷いていた。
……何であれ、世界のピンチを救うためには彼らの力が必要であり。
どうしようもない状況でも協力してくれるという本人達に
彼は内心で酷く安心してもいたのだった。
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作者名：フェイル | 作成日時：2015年6月25日 0時
