第41話 理不尽な人任せ ページ1
「──だれか〜、助けて〜」
それまで全く物音の聞こえなかった二人の耳に、
助けを求める女性の声が聞こえて来た。
そうとわかって、どちらからともなく咄嗟に立ち上がっては周囲を見渡す。
「私には無理よ〜。もう帰らせて……!」
「アンタは傷を治す妖怪でしょーが!
だったら、早くわらわのお肌をプリプリに若返らせなさいよ!」
声だけは聞こえて来るのだが、強い妖気は感じない。
まだ戦いには発展していないという事なのだろうが、
その声と微細な妖気を辿り、屋根の上から声の主達を探し出した。
「そんなの理不尽よ〜。だって年をとるのは傷じゃないし……」
「おだまり! アンタ、それじゃ売れないわよ!!」
「売れないモチ」
「そうだモチ」
彼らを探す途中で、ケータ達もまたこの声を聞きつけて
手洗いの方から駆け出して来ているのを見かける。
いつの間にか、手洗いのために外に出て居たようだ。
「口で言ってもわからないヤツには、キツ〜いおしおきが必要みたいだね」
「ひぃぃ……だ、誰か助けて〜」
そうして、屋根の上でAとオロチが、
地上をケータやウィスパーやジバニャンが駆けつけて来た時には既に一触即発。
夫人と二匹のちからモチに囲まれていたキズナメコが居たようだ。
そこへ、瞬時に移動して庇うように
キズナメコの目の前に立ちふさがったのが、ウィスパーだった。
「お待ちなさい!」
「──なんだい、アンタは?」
「フッ、通りすがりの妖怪執事ですよ。マドモアゼル」
どうやら三匹の中でも親玉のようである夫人──
リー夫人という妖怪に睨みつけられて、キメ顔を見せるウィスパー。
──どうでも良いが、とにかく家の真ん前で争いごとを起こすのは
やめてもらえないだろうか、と心の片隅で傍観しているケータが居る。
「よそ者は引っ込んでなさい。さもないと、痛い目を見るわよ?」
「貴方がたは絶対に許せません! こらしめてやる……!!
……と、私の御主人が申しております。うぃす」
「…………ええっ!? 俺〜!?」
不意に話を振られて、まさか三匹の矛先をこちらに向けられるとは
思っていなかったケータの反応が遅れた。
そこまで言っておいて人任せにするのはどうなんだ、と抗議しかけたが
リー夫人が声を放つので、その言葉も喉から出かけた寸前で止められ。
「あーら、言ってくれるじゃないの。やれるもんならやってごらん!」
……妖怪達の戦闘が始まろうとしていた。
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作者名：フェイル | 作成日時：2015年6月25日 0時
