美しい人 ページ3
美しい人に会った。ロシアのヴィクトル・ニキフォロフ。容姿は勿論、演技も、そして心も美しいと思った。彼には人を惹きつける魅力があるように感じた。完璧なジャンプ、完璧なステップ、完璧なスピン。
「わたしも、あんな風に――」
彼は沢山の人を惹きつける。
当時21歳だった彼には既にファンが沢山いた。ロビーにはヴィクトルを一目見たいと多くのファンたちが集まっていた。私も彼のファンのうちの一人だったが、多くの観客とは違い選手だったため、容易に彼に近づくことができた。私はその頃13歳。色紙なんていう気の利いたものは持っていなくて、幼馴染に誕生日プレゼントに貰った、可愛らしいメモ帳とペンを持って彼の元へ走った。何やら誰かとロシア語で話しているらしい。英語でさえあまりわからない私だったのだ。ロシア語なんてなおさらわからない。早く話しかけなければ行ってしまう、それだけの思いで私は彼のジャージを引っ張った。
「あ、の、すみません。さいん、いいですか」
拙い英語でゆっくりメモ帳とペンを差し出した。彼は最初は驚いたような顔をしていたが、すぐに笑顔になって、おーけーおーけ、と言ってそれを手に取った。さらさらとペンを走らせ、はい、とすぐに私へ返してくれた。
「名前は?」
「Aです、日本人です」
これまた拙い英語で名乗る。それを聞いたヴィクトルは何やら呟いたが当時の私にはなんて言っていたのか分からなかった。最後に彼は私の頭を軽く叩いて彼のコーチの元へ歩いて行った。たったそれだけの行動に私はとても気持ちが高ぶっていた。会場から出て今にも姿が見えなくなりそうなその背中に、私は大声で叫んで頭を深く下げた。
「ありがとうございました!!」
つい日本語で言ってしまった。伝わらなかったかもしれない。はっとして顔をあげると、そこにはこちらを見て軽く手を振るヴィクトルがいた。私の後ろの方でも彼の沢山のファンが嬉しそうに手を振り返す。
私は彼の大ファンである。
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いつの間にか3月。オリンピックも終わってしまいましたね。
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作者名:みなもと | 作成日時:2018年2月10日 21時