昔のお話1 ページ1
『嫌な夢...』
ギシリと軋むベッドから上半身だけを起こせば、額の汗が頬を伝って落ちる。
もたれ掛かった壁はひんやりとして気持ちよく、再び襲ってきた睡魔に身を委ねた。
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イギリスの都市部から離れた小さな町、どの家庭も食べるのに精一杯だったが、とりわけ私の家庭は貧窮していた。
幼い私は両親からしたらただの穀潰しでしかなく生まれた時から邪魔な存在だった。その為、名前など付けられず「あれ」だの「お前」だのといったようにしか呼ばれなかった。
両親共に日を追う事に窶れ、私への当たりは以前よりも酷いものとなった。
6歳の誕生日を迎えてしばらく経ったある寒い日______
「おい、起きろ」
壁際の床で寝ていた私を父は足で軽く蹴って起こした。外を見ればまだ薄暗く靄がかかっていた。
「野菜の売りに出る。お前も来るんだ。髪くらい梳かしてこい」
それはいつもなら父1人で行くもので私は行ったことがなかった。
急いで底のすり減った靴を履き、櫛なんてものを持っていない私はくすんだ窓ガラスを鏡にし手でできる限り髪を梳かした。
家を出て8キロ先の街まで2時間かけて歩き、そこから電車に乗った。勿論電車に乗るにもお金がかかるため今まで乗ったことはなかった。初めて乗る乗り物に幼い私は胸を躍らせた。
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