"通称"御幸の彼女兼愛されマネージャー【御幸一也】

第二十話 ページ25

高校に入ってからあまりシニアに目を向けることがなくなった私でも、大京シニアの事は何となく耳にした事がある。


大京シニアは私達がシニア時代の頃から"考える"野球をすることで知られていた。

しかし、その指導をしていた監督が、急にライバルだった別のシニアに移動したらしい。

その後両チームで試合をした時は大京シニアが圧勝したとか。

監督の移動の裏にはかなり膨大な金が動いていたとかで、中学野球の間では一時期噂になっていた。


浅田のボールを捕球し、セカンドへ投げる。

肩は悪くない、というかむしろいい。

確か送球を捕ったセカンドの子も大京シニアだったはずだ。



「なんか楽しそうだね、あのセカンドの子。声も出てるし」

『勝つ気でいるから、こんな状況でも声が出るし表情も明るいんだと思う。諦めていたら自然と気が落ちるから』

「でも、この点差で勝てる？決めつけは良くないけど、相手は上級生だし」

「ま、無失点で抑えるか一点入れるか出来たら十分でしょ」



彼らがまだ自分達を裏切った指導者に教わった野球をするのかは分からないけれど、"考える"野球をして来た彼らなら、この状況を少しでも覆すプレーが出来る気がする。

その証拠に、初球からレフトの頭上を越されて慌てていた浅野が、タイムを挟んでから落ち着いている。


バントで一つアウトを取ると、内野は前進守備になった。

自分達はまだ試合を諦めていない、その戦う意思を相手と見ている私達に示すように。


周りもだんだん声を出すようになってきた。

それもこれも、奥村が捕手として入ったからだ。


常に冷静で合理的なのかと思っていたけれど、意外と野球になると熱くなるタイプなのかもしれない。

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