"通称"御幸の彼女兼愛されマネージャー【御幸一也】

第十二話 ページ17

『は？沢村が一年と問題を起こした？』

「問題っつーか、ちょっと衝突しただけだけどよ。目障りだの消えてくれだのボロくそ言われたらしいぜ」

『はぁ...』



夜のミーティング後、一也と倉持に私達がいなかった昼の事を聞いた。

倉持に奢ってもらった__正しくは一也が奢らせた__ホットコーヒーを飲みながら、二人の話に疑問符を浮かべつつ相槌を打つ。



「しかもその相手、俺と同室の奴」

『あぁ...あの狼みたいな子』



いつも同じシニアの子と一緒で、他の部員といるところをあまり見た事がない。

周りに比べて少食の様で、毎日最後まで倉持と沢村の同室の一年と残って食べている姿はよく見るけれど。



「沢村の奴、他学年とぶつかってばっかだよな。うち入る前にはもう東さんに勝負ふっかけてたろ」

「東さんと言えば、Aもそうだけどな。あれは流石に見てるこっちも鳥肌だったぜ」



倉持が言っているのは、二年近く前のこと。

私達がまだ一年で、夏の大会に負けた東さん含む当時の三年生とぶつかった時だ。


あの日を境に、私は部の中で孤立した。

唯一私を除け者扱いしなかったのは、私の話を聞いていたマネージャー達だけ。


"冷酷のマネージャー"なんてあだ名を付けられたのもその時だ。

もう呼ばれなくなった今となっては懐かしい気すらするけれど、よくよく考えてみれば随分と痛々しい名前だったと思う。



『私はあの時のこと、ちっとも反省なんかしてないけどね』

「その精神力のタフさどっから来んだよ」

『さぁ？家庭環境じゃないかしらね』



泣けば殴られる。

三年生と過ごした時間が短かった、というのもあるけれど、私があの時悲しいと思わなかった最大の理由はそれだ。


なのに、今では普通に泣ける。

正直、みんなと和解したきっかけが家庭内暴力がバレたからだなんて考えたくもないけれど、お陰で私は普通の感情を持った人間に慣れた気がする。


空になった缶を自販機横のゴミ箱に捨てて、二人を振り返る。



『あなた達は私のこと、泣かせられるのかしらね』

「え。何、泣かされてぇの？」

『私がこのチームで良かったって思えるような試合を、夏に見せてくれるのかって言ってるの』



私の言葉に、二人は上等だと言わんばかりの笑みを浮かべる。



「ヒャハ！あったりめーだろ！」

「全国制覇した後、お前の嬉し涙を見るのが楽しみだなー」



...まぁ、とっくに思ってるけど、今は言わない。

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