４０ ページ44
40.
じんわり、じわり、甘さが広がる。
毒が回るように、身体に、広がっていく。
「だから言ったでしょ？」
私に向かってほれ見ろと言わんばかりのドヤ顔をしているツムギ。
な、なにさ…、私は…別に、落ちたとかそういうわけじゃない…と、思ってる…。
「負け惜しむな、お前はもう二宮さんの手の内なのだよ」
『何キャラなのよ…』
「まぁまぁ、あんな色気の爆弾みたいな人が側にいてしかも好意抱かれたら好きにならないほうが難しいって。しょうがないね、心中お察しするって」
『…意味わかんないし、』
「意味をわかれ、鈍感娘」
ツムギの手元にある名前の分からないおしゃれカクテルがキラキラと輝いている。同じものを飲んでいるのに、私とツムギじゃ違う飲み物に見えてくるこの不思議。なんかよくわからない気持ちになってきてぐいっと飲み干すと甘いお酒がぐるぐると私の中に入っていくのを感じる。
甘い毒が、広がるみたいに、まるで、
『でも、なにか、一定の線を引かれてるのを感じるときはある』
「一定の線？」
『上手く言えないけど…、マネージャーになったときの嫌われてる反応とは違うような、薄いフィルム一枚隔ててるような、そんな感じ』
二宮さんとの距離は、近い。
でも、手の届く位置なのに、だけれどもどこか遠い位置から、ずっとずっと甘い毒を与えられ続けている錯覚に陥る。
「もしかしたら、恋愛に嫌な過去を持ってるのは、Aだけじゃないのかもしれないね？」
『二宮さんもってこと？』
「うーん…、女にトラウマがあるとか、そういうんじゃないとは思うけど…。
恋人関係とか、そういうものに発展することがコワイとか。ほら、あのとき言ってたじゃない、結婚考えてた彼女がいたって。その人のこと、なにかまだ引きずってるのかもね」
『あ、』
「なに？」
『この間ね、松本さんに言われたの』
−−−−−−−−−−−−−−
それは、あの、二宮さんがギターを弾く姿を初めて見た日。
松本さんは帰り際に私のところへ来て、こう言った。
「もしAちゃんがニノの気持ちに応えてもいいと思えたら、Aちゃんからアイツの殻を破ってあげて」
『殻、ですか？』
「そう、殻。随分前から殻に閉じこもりやがって…出てこないんだよね」
『…何の殻ですか？』
「それに、Aちゃんが気付いたときが破ってやるタイミングかな？」
私に、そんな大役が、務まるんでしょうか…。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1446人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2016年4月25日 20時
