No.8 ページ9
「…A、こんな所にいたのかよ」
「…中原君」
織田作がこの世を去って1ヶ月。
太宰はマフィアを失踪し、その代わりにマフィアは多くの利益を得た。
「…なんかさ。太宰君も坂口君も作之助も居なくなって…静かだよね」
「…泣いてんのか、手前」
「…っ。泣いてなんか、ないし」
中也がゆっくりと近付いてくる。
逃げようと思えばいくらでも逃げれるというのに、なにもする気が起きなくて。
中也の男性らしく逞しい腕にしっかりと抱きしめられてしまった。
「…泣くんじゃねェよ。俺は手前に泣かれるのが一番嫌だ」
「っ、だからっ、泣いてないっ…!!」
「うっせェアホ女。いい加減認めろ」
言動は乱暴だが抱きしめる腕はとても優しい。
オマケに背中を優しくさすられてしまい、強がっていても意に反して涙が溢れてくる。
「…中原君のばーか…!!嫌い嫌い大っ嫌い…!!!」
「あっそ。俺は大好きだけどな」
「うるさい…!私の方が好きだからっ…!!」
雰囲気もヘッタクレもない二人の告白。
中也は悪人面の笑みを浮かべ、Aの耳元で低く囁いた。
「ヘェ?言ったなクソ雑魚」
「雑魚じゃない!!中原君の方が弱い!!」
「あァ?体術で1回でも俺に勝ててから言え雑魚」
「はぁ!?私は…」
それは不意打ちの。
言葉全てを打ち消してしまうような、甘くとろけるキス。
反論なんてもう出てこなかった。
全てを、何もかも、中也に溶かされてしまう。
「っは…。へったくそ」
「…っ!!うるさい…!」
「…なァ、俺でいいのか?人間じゃねェんだぞ」
中也の心臓の鼓動が聞こえる。
人間じゃなくたって、確かにここに中也は存在しているから。
暖かいぬくもりがあるから。
「…私は中也じゃなきゃやだ。私を見つけてくれた、中也がいい。中也が、大好き」
手を真っ直ぐに差し伸べてくれた中也だから。
こんな人殺しの私でも、好きだと言ってくれた中也だから。
「…あーそうかよ。物好きな奴」
半ば投げやりに髪をぐしゃぐしゃにしてくる中也。
「俺、離す気ねェからな。だから…手前も、俺のそばを離れるな」
「…ん。大好きだよ、中也」
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作者名:朔 | 作成日時:2019年7月16日 15時