19 ページ19
｢ええ、勿論です。そうですね、何について話しましょうか｣
顎に手を当てて少し考えると、伊沢さんはとても柔らかく微笑んだ。
｢絢瀬さん、"初恋"はいつです？｣
とても不思議な人だと思った。
ほぼ初対面に等しい私に、初恋の話を振るなんて。
しかしなぜか嫌な気はしなくて、むしろ今話さければいけないことのような気がした。
｢私の…初恋は｣
語り出そうとした私の口は、開いたまま固まってしまう。
喉の奥が張り付いて不快だったけれど、そんなことも気にならないほどのショックに襲われていた。
思い出せないのだ。
自分自身のことであるはずの、初恋を、何も。
"初恋"という単語の意味は、もちろん理解できる。
oubliが原因で別れてしまった初めての恋人のことも覚えていた。
しかし、感じるのは、彼が"初恋の相手"ではないという違和感ばかり。
脳に大きな穴が空いたかのように、初恋に関する記憶だけが綺麗さっぱり抜け落ちていた。
｢あの…いざわさ…｣
素直に声に出そうとした瞬間、また激しい頭痛が襲った。
警告のようにぐわんぐわんと揺さぶられる脳内で、伊沢さんの声が遠ざかっていく。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 131人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜子(プロフ) - わらべさん» わらべ様、初めまして。お読み頂きありがとうございます^^ そう言って頂けると更新のしがいがあります、嬉しいです。ぜひこれからも宜しくお願い致します。 (2021年4月20日 19時) (
レス) id: a4f711fe65 (このIDを非表示/違反報告)
わらべ(プロフ) - 初めまして。作品楽しく読ませていただきました！丁寧に練られたウイルスの設定が本当に面白くて…！これから先どうなるのか楽しみに待っております。 (2021年4月18日 22時) (レス) id: 34cdc8231e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夜子 | 作成日時：2021年4月17日 14時
