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『……タクシーは』
「呼んでないよ。もったいないでしょ。ギリ徒歩でいける範囲だもん」
『経費で、』
「落ちません」
なにを言っているんだ、この子豚ちゃんは。
いくらなんでもそんなに甘くはないですよ。
かじかんで感覚のなくなる指先でスマホの背面を撫でながら、電話口の向こうでぶつぶつ文句を言ってる山田の癖のない声を聞く。
華やかで煌びやかで、でも山田の声には嫌味がない。
歌が上手いのは努力のたまものだけど、この聞き心地のいい声そのものは天性のものだよなあ。
『伊野尾ちゃん、聞いてる?』
「聞いてる聞いてる」
声は、ね。
『ったく……アイドルなんだから、あんまり夜道を一人でふらふらするのってどうかと思うけど』
いつのまにか山田は完璧にお小言モードになってたらしい。
言ってることはもっともだけど、
お説教したくて電話してきたの?違うんじゃないの?って。
いたずら心がむくむく湧いてくるのは、やっぱりおれも酔ってるから。
そういやこいつ、おれのこと好きなんだよなあ、って今さら思い出した時にはもう、うっかり口が滑っていた。
「そんなに心配ならさ、お前が迎えに来たらいいじゃん」
『え……』
その声だけでもう山田がどんな顔してるか目に浮かぶ。
ぽかんとしてんだろうなあ。
虚を突かれたまぬけ顔を思い浮かべて、ふっと吐息だけの笑みが漏れた。
お小言マシンガンを一旦停止できただけで目的は達成されたようなもの。
もちろん本気で迎えに来てもらうつもりなんか毛頭ない。
「な〜んて」
うっそー、と続けるはずの声はかき消された。
『一番近くのコンビニで待ってて。すぐ行く』
続けざまにコートを羽織る衣擦れの音、駆け足で靴を履く音が聞こえてきて、おれは閉口した。
本気?マジ?
「ちょっと、山田、」
冗談だよ、と慌てて伝えようとしたけど、電話はもう切れてた。
おいおい、冗談だよっていうか冗談だろ?
通話終了を告げる画面に上部に表示された時計は、日付もとっくに変わった真夜中だ。
頬や鼻に吹きつける風は針みたいに冷たくて痛い。
*
【さっきの嘘だよ、別に来なくていいよ】
すぐそこに見えたコンビニに入って、打ち込んだメッセージを送るか送らないか。
だってもうあいつ、家出ちゃったんだよな。
今さらこんなの送ったら逆に迷惑かもしれない。
そんな風にぐだぐだ悩んでるから、ほら、もう遅い。
自動ドアの向こうに、強盗みたいな黒ずくめの男が見えた。
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ひとみ(プロフ) - 泣くないのちゃんもこれも大好きすぎて3ヶ月に1回くらい読みにきてます笑 この続きもめちゃくちゃ気になるので続きをお願いします!! (2021年11月27日 17時) (レス) @page36 id: e39657dd30 (このIDを非表示/違反報告)
荒川 - めちゃくちゃ好きです!!!続きをお願いします泣 (2021年10月26日 5時) (レス) id: f6705dec1d (このIDを非表示/違反報告)
inuneko(プロフ) - どうしよう!キュンキュンしすぎて叫び足りないんですけど!好きです!あと10回見てきます!!*\(^o^)/* (2020年2月6日 23時) (レス) id: 8271c7e9a0 (このIDを非表示/違反報告)
うさこ(プロフ) - こんばんは。いのちゃんが山ちゃんを好きになってる感じでニヤニヤしちゃいます。早くいのちゃんが恋に気付くといいなーと思ってます。 (2020年2月6日 23時) (レス) id: 1d86e2ca18 (このIDを非表示/違反報告)
あまなつ(プロフ) - さくさん» コメントありがとうございます。楽しんでいただけてなによりです!これからも更新がんばりますね! (2020年2月6日 22時) (レス) id: 8c441c3d0c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あまなつ | 作成日時:2020年1月5日 12時