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触れた体温はおれより低くて、唇は薄く、少しかさついていた。

山田の体温はおれより高い。

フランスだかイタリアだか、どこかのブランドものの高いリップクリームをマメに塗る唇はいつでも女の子のようにぷるぷるしっとりしてて、

「伊野尾ちゃんの唇、いっつもガサガサ。おれのリップ分けてあげる」

なんてクサいこと言って笑ってた。

そんな山田とのキスとは、違う。





違う。


「……ゆ、と…?」


永遠のようにゆっくりと離れた唇の隙間に、おれのかすれた声がぽつんと浮かび上がった。

これでもかってほど見開いた目にエアコンの風が当たって、乾燥でじんと痛む。


「へへ、さっそく浮気しちゃったね」


え?

焦点が合わないほどの至近距離で、裕翔がいたずらに微笑んだ。

うわ、ぼやけてても男前は男前だ。

すごーい、


「……えっ!?」


え、なに。

なに?

なに!?


「はあ!?」


ガタン!とけたたましい音がして、ドアに背中がぶつかる。


「先輩、いまドキドキしてるでしょ」

「し、してる……当たり前だろボケ……」

「口悪いなあ。……そういうとこも、ずっと好きだったよ」


さらりと告げられた言葉に、これ以上ないほど開いていた口が、さらにあんぐりと開く。

やばい。顎外れそう。

ドアを挟んだ廊下で同僚たちの談笑する声が聞こえてくるのが、やけに遠い世界のことのようだ。

すき。

きす。

すき。

待ってよ。なにが起きてんの?


──はじめまして!今日からWEBデザイン課に配属されました、中島裕翔です!


何故か裕翔との初対面が走馬灯のようによぎる。


「恋人といてもドキドキしないなら、おれがさせてあげる。先輩、付け入る隙があるなら、おれにチャンスをちょうだい」


そう言って、裕翔の大きな手がおれの手を掬いとる。

あ、と思った時にはその薄い唇が、今度は手の甲へと触れていた。

声も出ない。

目も口も、なんなら鼻の穴も。

身体中の穴という穴が開ききってる気がする。

裕翔にまで穴が開くくらい、じっと見つめることしかできないおれに、裕翔が笑った。





全身が発汗して、頭のてっぺんまで熱が駆け上る感覚。



『おれの運命のひとになってください』


『先輩はさ、まだ恋人さんのこと好きなの?』


『伊野尾ちゃんのことが好き。言葉にならないくらい』


『ずっと好きだったよ』



二人の声が混ざり合って、脳が茹だったみたいに何も考えられなくなる。

ああ、確かにこれは久しぶりの世界かもしれない。

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komikku(プロフ) - とても面白かったです〜!続きが気になります☆お待ちしてます☆ (2020年6月5日 8時) (レス) id: 4ae5ae8e00 (このIDを非表示/違反報告)
あまなつ(プロフ) - みるみるみるきーさん» コメントありがとうございます!三者三様、100%の善人は出てこない重めのお話になるかと思いますが、ぜひ今後もお時間のあるときにお付き合いくださると嬉しいです。 (2020年1月5日 23時) (レス) id: 84a58c20c8 (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - 新作、おめでとうございます。今後の3人の展開がとても気になります。更新楽しみにしています。 (2020年1月5日 12時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あまなつ | 作成日時:2020年1月1日 12時

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