6 ページ7
*
『これ、返さなくていいから』
いつかの冬の夜道、そう言って山田がおれに巻いた灰色がかったピンクのマフラー。
やけに手触りがいいと思ったらカシミヤで、ぎょっとしたことを覚えてる。
あのとき、おれと山田はまだ付き合ってなくて、それがクリスマスプレゼントだってことにもしばらく気づかなかった。
『やっぱり。絶対似合うと思った』
満足そうな山田が、近づいたり遠ざかったりしながらおれの周りをぐるぐる回って観察してるのが、なんか子犬みたいで可愛いなあ、って。
思えばそれが、山田を初めて意識した瞬間だったかもしれない。
*
ざあっと吹き抜ける夜風が重たい前髪を揺らし、まばたきをすれば、目の前にいるのはもちろん山田ではなく、あいつよりもずっと背の高い裕翔だった。
喉仏の浮いた首を寒そうに縮める姿にハッと我に返り、何故かおれの首に巻かれたストールを慌てて外す。
「いいよ、裕翔。おまえも寒いでしょ」
「いいから。先輩のほうが寒そうな見た目だし」
「いや、どういうことよそれ」
そんなにヒョロガリじゃねーわ。
ムキになって作った力こぶを見もせず、裕翔は寒い寒いと子どもみたいに騒ぎながら歩き出した。
だから、寒いなら返すってば。
モデルさながらに脚の長い裕翔を早足で追いかけ、隣に並ぶ。
追いついたおれを柔らかく細めた瞳で見下ろし、裕翔はコートのポケットに両手を突っ込んだ。
「……先輩はさ、まだ恋人さんのこと好きなの？」
「嫌いだったらさっさと別れてるよ」
ふぅん、と気のないような返事。
なんだよ、おまえが聞いてきたくせに。
「まあでもなんだろ、潮時っていうのもちょっと分かる気がするかもなあ……」
食いつかれないのが逆に話しやすくて、つい言葉がこぼれる。
胸をよぎるのは、先輩の一言。
結婚か、潮時か。
男同士のおれたちには"結婚"の選択肢ははなからなくて、残ったもう一つの選択肢が妙にリアリティを帯びて見えてきてしまう。
「最近あいつにドキドキすることも減ったしさぁ」
って、これはちょっとほったらかしにされてることへの皮肉かも。
口を滑らせまくるおれに、裕翔は相変わらず「そっかぁ」ってそっけない返事。
寒空の下、どこかぼんやりとした横顔だ。
やっぱり裕翔も酔ってんのかな。
明日には今の弱音を忘れてくれる可能性に、おれは少しホッとした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 402人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Hey!Say!JUMP」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
komikku(プロフ) - とても面白かったです〜！続きが気になります☆お待ちしてます☆ (2020年6月5日 8時) (
レス) id: 4ae5ae8e00 (このIDを非表示/違反報告)
あまなつ(プロフ) - みるみるみるきーさん» コメントありがとうございます！三者三様、100%の善人は出てこない重めのお話になるかと思いますが、ぜひ今後もお時間のあるときにお付き合いくださると嬉しいです。 (2020年1月5日 23時) (レス) id: 84a58c20c8 (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - 新作、おめでとうございます。今後の3人の展開がとても気になります。更新楽しみにしています。 (2020年1月5日 12時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あまなつ
| 作成日時：2020年1月1日 12時
