21 ページ22
side.R
***
ごめんね、と言えば「いいよ」と笑って返す。
仕事だから仕方ないじゃん。
それが伊野尾ちゃんの口癖。
ねえ、伊野尾ちゃんは寂しくないの？
おれはすごく寂しいけど、それを素直に口に出すのも悔しくて、
仕事より恋人を優先させて伊野尾ちゃんに呆れられるのも怖いんだ。
──仕事とおれ、どっちが大切なの、
なんて。
いっそそう聞いてくれたらいい。
そしたら、一秒も迷わずに、あんたのことを抱きしめられるのに。
***
1DKのアパートは、二十半ばの会社員が一人暮らしするにはちょっと贅沢な広さで、
家賃補助があるにしても、家にこだわりのある伊野尾ちゃんらしい物件だ。
学生の頃は、『いつかここで一緒に』なんて夢見たりしたけど、
いざ就職してみれば、勤務先の違う社会人二人が不自由なく同棲できる立地って難しいんだなと思い知らされた。
「いのおちゃーん、弁当作ったら持ってくー？」
「えー？なに、なんてー？」
洗面所に向かって声をかけると、水音に紛れて伊野尾ちゃんの寝ぼけた声が返ってくる。
別におれに合わせて早起きしなくていいよって言ったのに、
むくんだまぶたをこすりながら起きてくるもんだから、そのぶすな寝起き顔まで愛しくて、けっきょく朝食もフルコースだ。
はりきりすぎて余ったおかずを弁当箱に詰めて、洗面所へと向かう。
「お弁当、朝飯の余りだけど持ってく？って言いましたー」
「えっ！まじ！？」
顔面びちょびちょの伊野尾ちゃんと鏡越しに目が合って、眠そうな瞳がぱっと大きく輝いた。
「うん、持ってく持ってく！やった〜山田神！」
「分かった、じゃあ適当に包んどくね。朝飯も冷めるから、さっさと食って」
「はぁーい」
それだけ伝えてキッチンに戻ると、伊野尾ちゃんのご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
マジでお手軽。要はチョロい。
だけど、そんな調子外れな鼻歌なんかにつられて上機嫌になっちゃうおれも、やっぱりチョロいんだろうなあ。
そんなことを思いながら、下段一面に白米を敷き詰めた弁当箱をランチバッグに入れてエプロンを脱ぐ。
思いのほか準備は早く終わって、これなら余裕で会社にも間に合いそう。
夏にクリーニングに出したまま置いていたスーツは綺麗だけど、クローゼットに入れたままだったから湿気くさい。
「……ん？」
消臭スプレーを吹き、ついでに伊野尾ちゃんのにもかけるか、と彼の上着を手に取ったとき、ふいに内ポケットから一枚のカードが滑り落ちてきた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 402人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Hey!Say!JUMP」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
komikku(プロフ) - とても面白かったです〜！続きが気になります☆お待ちしてます☆ (2020年6月5日 8時) (
レス) id: 4ae5ae8e00 (このIDを非表示/違反報告)
あまなつ(プロフ) - みるみるみるきーさん» コメントありがとうございます！三者三様、100%の善人は出てこない重めのお話になるかと思いますが、ぜひ今後もお時間のあるときにお付き合いくださると嬉しいです。 (2020年1月5日 23時) (レス) id: 84a58c20c8 (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - 新作、おめでとうございます。今後の3人の展開がとても気になります。更新楽しみにしています。 (2020年1月5日 12時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あまなつ
| 作成日時：2020年1月1日 12時
